子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ダウンサイズ」:同じ話,昔「ウルトラQ」にありました

2018年03月17日 11時03分05秒 | 映画(新作レヴュー)
伝説のテレビ・シリーズ「ウルトラQ」第17話のタイトルは「1/8計画」だった。人口問題を乗り切るために人間を1/8にしてしまおう,という計画に巻き込まれた女性新聞記者の救出劇を描いたエピソードだったように記憶している。子供向けのテレビ番組用とは思えない発想が,よくもまあ企画会議を通ったものだと感心するが,かつて今村昌平について小津との関係性を論じていたほどの日本映画通である本作の監督アレクサンダー・ペインのこと,ひょっとするとそれを観ていた可能性も否定しきれない。ただ本作がまったくのオリジナルだったとしても,当時の奇抜な着想が50年後のアメリカで,最新のSFXを使って見事に映像化されていたと知ったら,「1/8計画」の脚本を書いた金城哲夫も「そうか,1/8よりも1/14の方が映像的には面白かったか,そうだったか!」と膝を叩いたのではないだろうか。

自分の身体を1/14にしてしまえば,エネルギーや食料消費が減る上に,資産は82倍に増える。そうなれば13cmになった人も,実社会に残った人もみんなハッピー。でも本当にそうなのか?
登場人物を日常生活とは異なる環境に立たせることによって物語を動かしてきたペイン作品史上でも,最もユニークな設定の作品。確かに途中までは「ミクロの決死圏」なSF的要素に目を奪われるのだが,主人公(マット・デイモン)がダウンサイズし,舞台が実社会から小さくなった人間の縮小社会へと移ってからは,「人間の歩むべき道」を巡る「普通のドラマ」となる。なので「アバウト・シュミット」は好きだったけれど「アントマン」はちょっとね,という王道映画マニアにも安心して薦められる作品と言える。

理想郷と思われた縮小社会における格差の存在を描いた部分が,やや型通りな印象であるのに比べて,終盤のノルウェーで繰り広げられるカルト集団的狂騒には,理性と狂気が薄皮一枚で隔てられたものであることを痛感させられる冷めた熱がある。クリスティン・ウィグが縮小を拒否して前半で姿を消したり,出演するだけで作品の格を自動的に2段は上げてしまう存在となったクリストフ・ヴァルツの怪演といった演技のアンサンブルも楽しいが,何よりタイ出身の女優ホン・チャウが,主演のマット・デイモンをSM的空気をまとわせつつこき使う中で,深い愛情が生まれていくプロセスが実に楽しい。
面白さのコスパという点では決して優等生ではないかもしれないが,ペインのチャレンジを私は買う。
★★★★
(★★★★★が最高)


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