子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「フロスト×ニクソン」:ピーター・モーガン×フランク・ランジェラ

2009年04月03日 23時40分16秒 | 映画(新作レヴュー)
「ダウト」に続いて,私の苦手とする舞台劇の映画化作品だ。だが,人間ニクソンの懊悩を繊細かつダイナミックに描いたピーター・モーガンの脚本が,フランク・ランジェラにとって正に「Once In A Lifetime」と呼べるような凄い演技を引き出して,圧倒された。監督のロン・ハワードにとっても,一つの到達点と言えるような成果であり,衰えが囁かれるハリウッドは,稀代の「大物悪役」を実に鮮やかに甦らせることと引き換えに,まだ良心的な娯楽作を作り出す余力を持ち得ている,という確かな証明を行って見せた。

ウォーターゲート事件そのものを描いた作品としては,アラン・J・パクラが若きジャーナリストの挑戦,という切り口から描出した「大統領の陰謀」があるが,本作のターゲットも事件の真相を炙り出す,ということには当てられない。
全米で放送されたTV番組の顛末を描く過程で浮かび上がってくるのは,思惑の異なる二つのチームが死力を尽くして攻防を繰り返すインタビューという名の「対決」の醍醐味と,その中心にいる二人の感情的な振幅のダイナミズムだ。

同様に史実に材を得た「ワルキューレ」が,大スター「トム・クルーズ」という足枷によって前のめりに転倒してしまったことと比べると,こちらの史実の再現劇は,メリハリの利いた展開と役者陣の見事な演技が絶妙の呼吸を見せて実に見事だ。
特に,ニクソン役のフランク・ランジェラは虚勢と愚直の間を自在に往き来しながら,権力者の理不尽な怒りと哀しみを強烈に発散する。中でもインタビューの決め手を導き出すきっかけとなる電話のシーンと,最後のインタビューのシークエンスにおける表情のコントロールは絶妙だ。
また,「クイーン」では国民から反撥を受けて苦悩するエリザベス女王の心情に寄り添ったマイケル・シーンは,今回は結果的に対決相手のニクソンから「劣等感を抱く同士」という手を差し伸べられるが,巨象を倒す蟻という役割は申し分なく果たしている。

「TVインタビュー」という演劇的=非映画的題材に対し,映画特有の技術を駆使することで映画的興趣を掻き立てる,という選択肢ではなく,あくまでオーソドックスに,物語の進行に伴って動いていく人間の感情を丹念に掬い取るという手法を選んだロン・ハワードの賭けは成功し,「フロスト×ニクソン」は想像を超える面白さを獲得したが,実際の出来事と映画という作り事の境界で「人間」を観察し続けるピーター・モーガンの快進撃も,もうしばらく続きそうな勢いだ。次のターゲットは,孤高の英雄という形容がピッタリ来る現インテル監督,ジョゼ・モウリーニョの半生の映画化という話もあるが,果たして…?
★★★★☆


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