国際経済(言うまでもなく国内経済も)のことにはとんと疎いため,本作のモデルとなった銀行のスキャンダルについては全く知らなかった。だが武器取引を巡って繰り広げられる,インターポール捜査官の奮闘を描いたこの優れたスリラーを味わうのに,金融に関する知識の備えは全く必要ない。アルフォンソ・キュアロンの傑作SF「トゥモロー・ワールド」の時と同様,あえて負け戦に挑むクライブ・オーウェンの無精髭は,今回もスクリーン上で渋い輝きを放っている。
しかめ面で描けば,いくらでも複雑かつペシミスティックにも,脳天気なアクションを詰め込めば,007テイストを纏ったスパイ・アクションにもなったであろう題材を,ドイツから招かれたトム・ティクバは,ロケーションの効果と軽快なテンポを重視したバランスの良い娯楽作品として仕上げた。
特に,国際金融機関の陰謀という作品のコアとなる部分が,話の筋から浮くことなく,ラストまで出演者全員に対する静かな圧力となって機能し続けたのは,ヨーロッパを横断する大規模なロケーションの効果的な使用に拠るところが大きい。
どうにもテレンス・ヤングの代表作である「ロシアより愛を込めて」を想起してしまった,イスタンブールの市場におけるラストは,ティクバの出世作「ラン・ローラ・ラン」の再現だったのかもしれないが,くたびれた中年男同士の人力屋根チェイスにも味わいがあった。
走らされた当人のクライブ・オーウェンは,天下無敵のスーパーヒーローとして空を翔ることもない替わりに,無力感に苛まれて苦悩し続けることもなく,あくまでリアルな巨悪に正対し続ける等身大のヒーローを,過不足なく造りあげている。
主人公(サリンジャー)の職業であるインターポール捜査官が,実は逮捕権のない情報提供者に留まる,という驚愕の(知らなかったのは私だけか?)事実を提示することに加え,米国の検察官ナオミ・ワッツとチームを組みつつ,最後には組織から裏切られるヒットマンとも束の間の共闘を組ませることによって,人間味を前面に押し出したキャラクターの立たせ方も,実に巧妙だ。
それにしても,グッゲンハイム美術館を穴だらけにしてしまう銃撃戦のアイデアには恐れ入った。当然セットだとは思うが,ミュージアムを破壊し尽くす迫真のシークエンスには,まるで(即お金には繋がらない)現代美術の存在そのものに対する金融界のスタンスを象徴するかのような,冷たい無関心が宿っていた。
ここは,どうぞお好きに壊して下さい,とばかりに利用を許した美術館の太っ腹と,40歳を迎えて益々輝くナオミ・ワッツの美貌の合わせ技で,☆一つをプラス。
★★★☆
しかめ面で描けば,いくらでも複雑かつペシミスティックにも,脳天気なアクションを詰め込めば,007テイストを纏ったスパイ・アクションにもなったであろう題材を,ドイツから招かれたトム・ティクバは,ロケーションの効果と軽快なテンポを重視したバランスの良い娯楽作品として仕上げた。
特に,国際金融機関の陰謀という作品のコアとなる部分が,話の筋から浮くことなく,ラストまで出演者全員に対する静かな圧力となって機能し続けたのは,ヨーロッパを横断する大規模なロケーションの効果的な使用に拠るところが大きい。
どうにもテレンス・ヤングの代表作である「ロシアより愛を込めて」を想起してしまった,イスタンブールの市場におけるラストは,ティクバの出世作「ラン・ローラ・ラン」の再現だったのかもしれないが,くたびれた中年男同士の人力屋根チェイスにも味わいがあった。
走らされた当人のクライブ・オーウェンは,天下無敵のスーパーヒーローとして空を翔ることもない替わりに,無力感に苛まれて苦悩し続けることもなく,あくまでリアルな巨悪に正対し続ける等身大のヒーローを,過不足なく造りあげている。
主人公(サリンジャー)の職業であるインターポール捜査官が,実は逮捕権のない情報提供者に留まる,という驚愕の(知らなかったのは私だけか?)事実を提示することに加え,米国の検察官ナオミ・ワッツとチームを組みつつ,最後には組織から裏切られるヒットマンとも束の間の共闘を組ませることによって,人間味を前面に押し出したキャラクターの立たせ方も,実に巧妙だ。
それにしても,グッゲンハイム美術館を穴だらけにしてしまう銃撃戦のアイデアには恐れ入った。当然セットだとは思うが,ミュージアムを破壊し尽くす迫真のシークエンスには,まるで(即お金には繋がらない)現代美術の存在そのものに対する金融界のスタンスを象徴するかのような,冷たい無関心が宿っていた。
ここは,どうぞお好きに壊して下さい,とばかりに利用を許した美術館の太っ腹と,40歳を迎えて益々輝くナオミ・ワッツの美貌の合わせ技で,☆一つをプラス。
★★★☆