子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「マネーボール」:松井秀喜選手には申し訳ありませんが,ビリー・ビーン,最高です
丸谷才一が帯に寄せた「面白い」という賛辞につられて今から7年前に読んだマイケル・ルイスの原作は,確かに滅法「面白かった」。
打率や球速など従来型の分かり易い指標の高い選手,または野球の細かい技術が多少劣ってはいても,身体能力の高さや若さといった点で,無限の可能性を感じさせるダイヤの原石のような選手たちがドラフトやトレードで注目される現状に,真っ向から闘いを挑んだオークランド・アスレチックのGM,ビリー・ビーンを主人公にメジャーリーグの舞台裏を描いたノン・フィクションだ。
並み居る古強者のスカウトや首脳陣らの猛反対を押しのけ,そんな統計学的なアプローチを採用することによってチームの強化に成功し,メジャーリーグ全体の常識を揺さぶったビーン(ブラッド・ピット)の苦難に満ちた闘いを,「カポーティー」以来音沙汰がなかったべネット・ミラーが映画化した作品が本作「マネーボール」だ。
しかし題材自体は奥深く,痛快な面白さを持ったものであったとしても,血湧き肉躍る試合そのものが主題ではなく,会議室や電話による駆け引きが中心となる,どちらかと言えばヴィジュアルとは言い難い話を映画として立ち上げる作業,特に脚本を担当したアーロン・ソーキンとスティーヴン・ザイリアンの仕事は,ビリー・ビーンの仕事に酷似していたような気がする。
一歩間違えば,優れた人間や業績に対する平板な賛辞に終始する「情熱大陸」に変質してしまいそうな素材を,しっかりとニュアンスに富んだ物語に仕立てた手腕は,もっと褒め称えられるべきだ。
特にビーンの右腕として,データ分析によって古き佳きスカウティングの世界に切り込んでいく急先鋒となるピーター(ジョナ・ヒル)が,ビーンの指示で選手にトレードを言い渡すエピソードは,「マイレージ,マイライフ」のジョージ・クルーニーとアナ・ケンドリックのコンビを彷彿とさせるし,ビーンと監督(フィリップ・シーモア=ホフマン)のやり取りは,ホワイトカラーの上司と現場の中間管理職の火花散る関係を描いて,下手なビジネス書よりもリアルに組織論を語っている。
だが「マネーボール」が活き活きとした人間ドラマになり得た何よりの理由は,主役のブラッド・ピットの素晴らしさにほかならない。資金不足という条件から仕方なく負け戦に挑まざるを得なかったビーンを,完全無欠のヒーローではなく,メジャーリーグにおける挫折体験の持ち主で,バツイチ子ありの癇癪持ちという,生身の人間としてヴィヴィッドに描くという狙いは,ピットの年季の入った演技でなければ実現しなかったはずだ。
別れて暮らす娘の歌(最高!)に勇気付けられて,我が道を突き進むビーンが相手では,松井秀喜のストーブ・リーグは険しいものにならざるを得ないだろう。
野球好きは勿論,野球に興味はなくとも部下との関係に悩むサラリーマンも,ユニークなベンチャー企業を立ち上げようと企む若者も,往年のロバート・レッドフォード好きのおばさんも,皆さんとにかく急いで劇場へ。
★★★★★
(★★★★★が最高)
打率や球速など従来型の分かり易い指標の高い選手,または野球の細かい技術が多少劣ってはいても,身体能力の高さや若さといった点で,無限の可能性を感じさせるダイヤの原石のような選手たちがドラフトやトレードで注目される現状に,真っ向から闘いを挑んだオークランド・アスレチックのGM,ビリー・ビーンを主人公にメジャーリーグの舞台裏を描いたノン・フィクションだ。
並み居る古強者のスカウトや首脳陣らの猛反対を押しのけ,そんな統計学的なアプローチを採用することによってチームの強化に成功し,メジャーリーグ全体の常識を揺さぶったビーン(ブラッド・ピット)の苦難に満ちた闘いを,「カポーティー」以来音沙汰がなかったべネット・ミラーが映画化した作品が本作「マネーボール」だ。
しかし題材自体は奥深く,痛快な面白さを持ったものであったとしても,血湧き肉躍る試合そのものが主題ではなく,会議室や電話による駆け引きが中心となる,どちらかと言えばヴィジュアルとは言い難い話を映画として立ち上げる作業,特に脚本を担当したアーロン・ソーキンとスティーヴン・ザイリアンの仕事は,ビリー・ビーンの仕事に酷似していたような気がする。
一歩間違えば,優れた人間や業績に対する平板な賛辞に終始する「情熱大陸」に変質してしまいそうな素材を,しっかりとニュアンスに富んだ物語に仕立てた手腕は,もっと褒め称えられるべきだ。
特にビーンの右腕として,データ分析によって古き佳きスカウティングの世界に切り込んでいく急先鋒となるピーター(ジョナ・ヒル)が,ビーンの指示で選手にトレードを言い渡すエピソードは,「マイレージ,マイライフ」のジョージ・クルーニーとアナ・ケンドリックのコンビを彷彿とさせるし,ビーンと監督(フィリップ・シーモア=ホフマン)のやり取りは,ホワイトカラーの上司と現場の中間管理職の火花散る関係を描いて,下手なビジネス書よりもリアルに組織論を語っている。
だが「マネーボール」が活き活きとした人間ドラマになり得た何よりの理由は,主役のブラッド・ピットの素晴らしさにほかならない。資金不足という条件から仕方なく負け戦に挑まざるを得なかったビーンを,完全無欠のヒーローではなく,メジャーリーグにおける挫折体験の持ち主で,バツイチ子ありの癇癪持ちという,生身の人間としてヴィヴィッドに描くという狙いは,ピットの年季の入った演技でなければ実現しなかったはずだ。
別れて暮らす娘の歌(最高!)に勇気付けられて,我が道を突き進むビーンが相手では,松井秀喜のストーブ・リーグは険しいものにならざるを得ないだろう。
野球好きは勿論,野球に興味はなくとも部下との関係に悩むサラリーマンも,ユニークなベンチャー企業を立ち上げようと企む若者も,往年のロバート・レッドフォード好きのおばさんも,皆さんとにかく急いで劇場へ。
★★★★★
(★★★★★が最高)
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