子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」:絵解きに留まらない魅力に溢れた映像化

2010年02月13日 21時08分17秒 | 映画(新作レヴュー)
原作となった小説は,「笑う警官」に代表されるスウェーデンの社会派推理の列に連なる優れたサスペンスだった。40年間も迷宮入りしていた謎を解く鍵が,古い写真とiBookのコンビネーションだった,という描写に象徴されるように,古典とモダンを極寒の地で練り合わせた手腕は,これがデビュー作とは思えないレヴェルの高さだった。
この完成度の高い小説を本国(スウェーデン)の映画人達が,どんなに映画にするのか興味は募ったが,結果はジョナサン・デミの傑作「羊たちの沈黙」を彷彿とさせるような重厚な傑作となっていた。孤高のヒロイン,リスベット・サランデル(ノオミ・ラパス)が放出する冷たい熱気は,久しぶりに昭和の寒さが戻ったような札幌の2月のスクリーンによく似合う。

物語の主軸となるヴァンゲル一族の登場人物がかなり絞られていることの他には,主人公のミカエルの夜の生活がやや節度のあるものになっているところ,更に殺人犯の最後の決断が異なっている点などを除いて,ほぼ原作に忠実な映画化だ。ミカエルとリスベットが出会うまでの前半のパラレルな場面展開と,遠い昔に起きた連続殺人の謎解きになだれ込んでいく後半のスピードの違いも,しっかりと計算されている。
153分の上映時間中,弛緩する(出来る)場面は殆どないにも拘わらず,緊張感で疲れるということもなかったのは,大部の原作を刈り込む脚色の確かさの表れだ。
また物語の鍵となる幾つかの場面,ハリエットが隠遁していた小屋や殺人が行われていた部屋等における美術の仕事も見事だったが,特に冬の屋外の描写に感じられた刺すような空気感には,米国製のアクション映画とは一味違う硬質の魅力があった。なので,既に報じられたハリウッド・リメイクについては,「止めた方が良い」に一票を投じたい。

俳優陣では,ハッカーとして超人的な能力を発揮するリスベットの,ヒリヒリするような孤独感を,軽やかな身のこなしと陰影のある声によってフィルムに定着させたノオミ・ラパスの輝きが際立っていた。彼女に加えて,ベルイマン作品が似合いそうなヘンリック・ヴァンゲル役の俳優や,回想シーンを除いてほぼ写真のみの出演ながら透徹した眼差しで物語を支えるハリエット役の女優など,本作の成功はキャスティングにかなり部分を負っている。かつてイングリット・バーグマンを輩出したかの国が今,世に送り出す逸材は,スカーレット・ヨハンソンだけではないようだ。

出版前に急逝したスティーグ・ラーションが残した小説「ミレニアム」は,本作品の原作である「1」を含めた3部作となっており,本作のエンド・クレジット終了後には「2」の予告編も上映された。この作品のレヴェルが保証されるのであれば,全3作の映画化完走を楽しみに待ちたい。
それにしても,劇中のiBookの颯爽とした動作よ!日頃3年落ちのiMacをなだめすかしている私の目には毒だった。嗚呼。
★★★★
(★★★★★が最高)


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