主演のイライザを演じるサリー・ホーキンスは,私にとっては一連のマイク・リー監督作品や絶賛された「ブルージャスミン」よりも,地味に楽しい「パディントン」シリーズのお母さん役の印象が強い。その彼女が冒頭から全裸で自慰を行う。これはR15+指定も仕方ないのかと思っていたら,アマゾンからやって来た,現地では「神」と崇められていた水棲生物と愛を交わし,いわんやその性器の状態を同僚(オクタヴィア・スペンサー)にジェスチャーで教える。うーむ。映像的な過剰さで知られるギジェルモ・デル=トロ,勝負に出たな,という印象を受けたが,そんな自我表出的な意味での「勝負作」が,アカデミー賞の作品賞を獲得するとは,おそらく監督自身も思っていなかったのではないか。デル=トロは受賞後のスピーチで,こんな企画にGOサインを出した制作会社フォックス・サーチライトに感謝する,会社に住みたいくらいだ,と熱く語っていたのがとても印象的だった。
本作はそのフォックス・サーチライトが同時期に制作した「スリー・ビルボード」と,期せずしてオスカーの作品賞を争うこととなった訳だが,仕立ても趣きも異なる両者共に,地味な職人芸を誇る助演陣のコラボレーションが作品の核となっている点は共通している。神経症的な小人物でありながら家庭を持つ一方で,水棲生物以上に怪獣的な存在感を示すマイケル・シャノン。物語が海底に沈んでしまわぬよう,浮力となるパートを一人で引き受けるスペンサーに,根は善人のソ連のスパイ,という非常に難しい役柄を完璧に演じたマイケル・スタールバーグ。そしてイライザの心の友となるゲイで時代遅れの画家役のリチャード・ジェンキンス。彼らの絶妙のコラボレーションこそが,作品の格を2段も3段も引き上げた原動力となっている。
「スリー・ビルボード」が物語の展開力で観客に足払いをかけるというアプローチを取ったのとは対照的に,本作は地味な寝技でじわじわと観客の心を奪う,という戦略を選択した。イライザが勤める研究室と生物が閉じ込められる実験室の造作,イライザの部屋のインテリア,画家が描く絵にまずいパイを出すダイナー,そして何よりもグロテスクで魅力的な生物のデザインと,随所で輝く凝りに凝った美術は,1960年代初頭と現代を曲がりくねったバイパスで繋いで見せる。当時の流行を取り入れたアレクサンドル・デスプラの優雅な音楽も心に残る。
物語自体はほぼ予想通りに進み,これといったサプライズはないのに,観終わった時の充実感はデル=トロ史上最高のものだ。もしも当時のB級作品をあんなゴージャスな2番館で観られたら,仮に漏水でずぶ濡れになったとしても,私は決して払い戻しを要求しないと断言する。Congratulations!
★★★★☆
(★★★★★が最高)
本作はそのフォックス・サーチライトが同時期に制作した「スリー・ビルボード」と,期せずしてオスカーの作品賞を争うこととなった訳だが,仕立ても趣きも異なる両者共に,地味な職人芸を誇る助演陣のコラボレーションが作品の核となっている点は共通している。神経症的な小人物でありながら家庭を持つ一方で,水棲生物以上に怪獣的な存在感を示すマイケル・シャノン。物語が海底に沈んでしまわぬよう,浮力となるパートを一人で引き受けるスペンサーに,根は善人のソ連のスパイ,という非常に難しい役柄を完璧に演じたマイケル・スタールバーグ。そしてイライザの心の友となるゲイで時代遅れの画家役のリチャード・ジェンキンス。彼らの絶妙のコラボレーションこそが,作品の格を2段も3段も引き上げた原動力となっている。
「スリー・ビルボード」が物語の展開力で観客に足払いをかけるというアプローチを取ったのとは対照的に,本作は地味な寝技でじわじわと観客の心を奪う,という戦略を選択した。イライザが勤める研究室と生物が閉じ込められる実験室の造作,イライザの部屋のインテリア,画家が描く絵にまずいパイを出すダイナー,そして何よりもグロテスクで魅力的な生物のデザインと,随所で輝く凝りに凝った美術は,1960年代初頭と現代を曲がりくねったバイパスで繋いで見せる。当時の流行を取り入れたアレクサンドル・デスプラの優雅な音楽も心に残る。
物語自体はほぼ予想通りに進み,これといったサプライズはないのに,観終わった時の充実感はデル=トロ史上最高のものだ。もしも当時のB級作品をあんなゴージャスな2番館で観られたら,仮に漏水でずぶ濡れになったとしても,私は決して払い戻しを要求しないと断言する。Congratulations!
★★★★☆
(★★★★★が最高)