子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「脳内ニューヨーク」:これぞ究極のテーマ・パークだ
邦題を初めて聞いた時は,フジTVの朝の情報番組「めざましTV」の中で,ニューヨークの人気スポットやトレンドを紹介していた「OH!MYニューヨーク」の韻を踏んだパクリかと思った。観終わった今は,一見全然違ったように見えながら,実は結構似たような視点からニューヨークを眺めた映画なのかもしれないと感じている。
一人の人間にとって,彼(または彼女)の人生という「演劇」の舞台である「街」の姿は個人の妄想の産物に過ぎない,というコンセプトは,少々ややこしい構造をしてはいるものの,脚本家としてのチャーリー・カウフマン作品としては,「マルコビッチの穴」以上の普遍性を持つに至っている。演出家の脳内を飛び出した妄想の街は,実に魅力的で妖しげだ。
私生活はどうもうまく行かないのに,アーティスティックな香りをまとった演出の仕事を認められたケイデン(フィリップ・シーモア=ホフマン)は,受賞した賞の奨励金を使って大きな倉庫の中に自分が住む街=ニューヨークを再現しようと試みる。しかし自分の分身や自分を取り巻く人間が出演者となってその劇に登場し,実生活を再現していくうちに,実生活と演劇を捉える視点と境界とが徐々にあやふやになっていく。
これまで何度も脚本家として,人間の思考や妄想と実社会とのギャップを題材として取り上げてきたカウフマンは今回,「人生という虚構」を演出する演出家という客観的な視点を設定することによって,想像力が飛翔するフィールドに具体性を与えることに成功している。
倉庫に築き上げられていくニューヨークが,いつまで経っても完成せず,そこで繰り広げられるはずの演劇も一向に幕が開く気配を見せないうちに,みんなが年を取り,出演者やケイデンの身内が死んでいく,という核となる物語も,鋭く深いアイロニーに満ちている。
ただ,倉庫の中に作られる虚構の街,という実に魅力的な発想は,物語的にもヴィジュアル的にもさほど生かされてはいない。
また物語の序盤で,身体に数々の異変を生じるケイデンにとって身近な存在だったはずの死が,終盤で自分ではなく,全身に刺青を入れた実の娘やケイデンを観察し自ら演じるサミー(トム・ヌーナン)に訪れるのだが,それらは物語に大きな影響を与えない。
それでもニューヨークという妄想の坩堝のような街で,奇妙で過酷な人生を生きる人々を,こんな視点で描いた作品のユニークさは少しも褪せない。静かで優しい主題曲は,ここ数年聴いた映画のテーマ曲としては最上のもので心に深く染みいる。
この作品を気に入るかどうかは別として,観た後には大きな倉庫を見る目が変わることだけは請け合いだ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
一人の人間にとって,彼(または彼女)の人生という「演劇」の舞台である「街」の姿は個人の妄想の産物に過ぎない,というコンセプトは,少々ややこしい構造をしてはいるものの,脚本家としてのチャーリー・カウフマン作品としては,「マルコビッチの穴」以上の普遍性を持つに至っている。演出家の脳内を飛び出した妄想の街は,実に魅力的で妖しげだ。
私生活はどうもうまく行かないのに,アーティスティックな香りをまとった演出の仕事を認められたケイデン(フィリップ・シーモア=ホフマン)は,受賞した賞の奨励金を使って大きな倉庫の中に自分が住む街=ニューヨークを再現しようと試みる。しかし自分の分身や自分を取り巻く人間が出演者となってその劇に登場し,実生活を再現していくうちに,実生活と演劇を捉える視点と境界とが徐々にあやふやになっていく。
これまで何度も脚本家として,人間の思考や妄想と実社会とのギャップを題材として取り上げてきたカウフマンは今回,「人生という虚構」を演出する演出家という客観的な視点を設定することによって,想像力が飛翔するフィールドに具体性を与えることに成功している。
倉庫に築き上げられていくニューヨークが,いつまで経っても完成せず,そこで繰り広げられるはずの演劇も一向に幕が開く気配を見せないうちに,みんなが年を取り,出演者やケイデンの身内が死んでいく,という核となる物語も,鋭く深いアイロニーに満ちている。
ただ,倉庫の中に作られる虚構の街,という実に魅力的な発想は,物語的にもヴィジュアル的にもさほど生かされてはいない。
また物語の序盤で,身体に数々の異変を生じるケイデンにとって身近な存在だったはずの死が,終盤で自分ではなく,全身に刺青を入れた実の娘やケイデンを観察し自ら演じるサミー(トム・ヌーナン)に訪れるのだが,それらは物語に大きな影響を与えない。
それでもニューヨークという妄想の坩堝のような街で,奇妙で過酷な人生を生きる人々を,こんな視点で描いた作品のユニークさは少しも褪せない。静かで優しい主題曲は,ここ数年聴いた映画のテーマ曲としては最上のもので心に深く染みいる。
この作品を気に入るかどうかは別として,観た後には大きな倉庫を見る目が変わることだけは請け合いだ。
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