子供はかまってくれない

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本「愛おしい骨」キャロル・オコンネル:人物,物語,語り口,全ての要素がミスマッチ

2011年02月11日 22時07分23秒 | 本(レビュー)
ミステリー界で「骨」と言えば,「古い骨」に代表されるアーロン・エルキンズのギデオン教授シリーズが有名だ。だが「骨」そのものにこだわり,そこから犯罪を紐解いていく同シリーズとは違い,キャロル・オコンネルの「愛おしい骨」における「骨」は,物語の導入部としての役割を果たすのみで,その実体はミステリーと言うよりも,大がかりで時代錯誤な昼メロなのだった。これが本当に「このミステリーがすごい!2011年版」の海外部門の第1位なのか?というのが素直な感想だ。

確かに殺人事件は起こり,容疑者が大勢主人公の周りをうろつき,真相が明るみになる過程で更なる殺人事件が起きるという体裁だけをみれば,立派なミステリーだ。
愛する人とのつながり,そして家族の絆を求める人間の性と悲しい運命が,重たい筆致で明らかにされるクライマックスには,それなりのカタルシスがない訳ではないし。

しかし,そこに到るまでの道程はまるで,ひどいぬかるみを怠惰な農耕馬に引かれた馬車で進むが如く,しんどく鈍いツアーだ。比喩は判りづらく,複雑な人物関係を解きほぐす語り口は,脱線を繰り返す人力トロッコのように覚束ない。
解説や帯では,その文体も,物語性も,ミステリーとしての完成度についても,絶賛しているが,どこがそんなに素晴らしいのか,私にはさっぱり理解できなかった。

登場人物の過去が様々な形で事件に影響している,という設定なのだが,その過去が明らかにされていく部分は,思わせぶりとひけらかしの同居にしか思えなかったし,物語の中心に鎮座して事件の鍵を握ると思われた女性の描写が,中世の女王の悲劇もかくやという筆致なのも,現代物にはそぐわない。
ボーナスを叩いて年末に買ったベストテン入選作の幾つかのうち,既に読んだ第6位作「エコー・パーク」(マイクル・コナリー)に,登場人物の「血の通い度」という点で遙かに及ばない。がっくり。
★★
(★★★★★が最高)


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