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映画「華氏119」:マイケル・ムーア,本人なのですけれど…

彼が撮った映画の認知度は決して高くないにも拘わらず,お笑いコンビのハリセンボン近藤春菜が使ったギャグ「マイケル・ムーアじゃねえよ!」によって,日本全国の子供からお年寄りまでとにかくその「顔」だけは知られる存在となった「身体を張るドキュメンタリー作家」のマイケル・ムーア。ドナルド・トランプをターゲットにした彼の新作は,アメリカの中間選挙の直前に本国で封切られた。その週のボックスオフィスを見る限り,残念ながら大ヒットとはならなかったようだが,ここでのトランプ批判が下院での民主党勝利に,どの程度寄与したかどうかは本当のところ分からない。何故なら映画の内容は,半分くらいが民主党のオバマ=ヒラリーに対する批判に費やされているのだから。

アメリカの映画レビューサイト「ロッテントマト」におけるフレッシュ度が100%,とフライヤーの裏にゴシックで記されているが,一番ショッキングなシーンはオバマ前大統領が,鉛による汚染が問題となっている水道の水をコップで「飲んだ」振りをするシーンだろう。
トランプの盟友スナイダーがムーアの故郷ミシガン州の知事に就任し,州内でも黒人の比率が高い都市フリントで民間に水道事業を開放するのだが,その水道水の水質が問題となる。その際に,スナイダーが頼ったのはなんとオバマだったのだ。あの伝説となった就任演説で,自由と民主主義と平和と平等の尊さを高らかに謳い上げた大統領が,こともあろうにインチキ知事と裏で手を握っていた,という事実は,トランプの破廉恥の数々よりも遥かに大きな衝撃を観客に与える。

映画は終盤で,古い民主党の指導層をひっくり返す存在として,フレッシュな若い層の台頭に期待を寄せていく。20代の若さでバーテンから見事に最年少の議員へと転身を遂げ話題となったアレクサンドリア・オカシオ・コルテスの草の根的な選挙活動がフィーチャーされるのだが,トランプは酷い→さりとて民主党も酷い→でも民主党の若い層には期待してみよう,という基本的な構造は,映画的には極めて平凡な既視感のあるもので,ムーアの行動も想定の範囲内を出ることはない。どうやら「この映画が公開されればトランプ王国は必ず崩壊する」というムーア本人の願いにも似た宣伝文句も,トランプがあの変てこりんな髪型を振り回すことでまき起こる風に,かき消されてしまったようだ。次作では是非近藤春菜の援軍を。
★★☆
(★★★★★が最高)
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