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映画「サマー・オブ・ソウル」:埋もれた大事件を発掘する考古学に拍手と光を

副題の「あるいは,革命がテレビ放送されなかった時」が全てを表している。ウッドストックが開かれていた同じ夏に,ハーレムのど真ん中で開かれていた黒人のための音楽祭の記録がこうして「発掘」され,クエストラブの手で見事なドキュメンタリー作品として公開されるに至ったのは,音楽の世界に留まらずアメリカの社会にとって大きな意味を持つ。
勿論,若きスティーヴィー・ワンダーから始まって,クライマックスとなるスライ&ザ・ファミリーストーンまで,躍動感溢れる演奏の記録としても貴重なことは言うまでもない。
今年はシドニー・ポラックのクレジットが微かに刻印されたアレサ・フランクリンの「アメイジング・グレイス」が公開されたことも文字通り「アメイジング」だったが,その存在すら知らなかったNYのコンサートに,BLMが大きなトレンドとなった2021年にこうしてスポットライトが当てられたことに,心からの喝采を送りたい。

無名だったプロモーターがリベラルな市長を担ぎ出してこれだけのイベントを実行したということだけでも,充分に感動的な「プロジェクトX」が作れそうだが,当時はどんなものになるかも不透明だったイベントにこれだけのビッグ・ネームが揃って出演し,大勢の黒人に勇気と誇りと歓びを与えたことが,50年を経て出演者と観客双方の口から語られる様は,正に圧巻だ。
印象的だったのは「アクエリアス/レット・ザ・サンシャイン・イン」が大ヒットしていたフィフス・ディメンションが,そのスムースでポップな音楽性故に「白人グループだと思われていた」ため,同胞に仲間だと認めてもらうために出演した,とメンバーが当時の映像を見ながら涙ながらに語るシーンだ。新聞の表記が「ニガー」から「ブラック」へと変わることにもまだ抵抗があった時代,黒人の中でも分断があったことが生き証人の口から語られ,そういった状況を変えたいと切望した人の願いがこんな形で結実したという感動と同時に,結局は歴史の本の「注釈」程度に留まってしまったという現実の過酷さが胸に迫る。

衣装を変えて何度も登場することから,スライはすべての公演日に出演したのだろう。迫力充分のクイーンたるニーナ・シモンとデュエットすることに感激しているメイヴィス・ステイプルズは,後日ライ・クーダーと組んで発表した傑作「We'll never turn back」の原点がここにあったかと思わせる力演も素晴らしい。
スライのバンドでトランペットを吹いていた女性奏者に感激した,と語る観客の話が出てくるが,同様に感じたであろう大勢の女性たちのエネルギーがカマラ・ハリスを送り出したに違いないと思わせる感動作だ。
★★★★★
(★★★★★が最高)
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