子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ミナリ」:大草原のトレーラーハウスと花札おばあちゃん

2021年04月04日 21時48分01秒 | 映画(新作レヴュー)
朝鮮半島で生まれた女性が村にやって来た青年と共に日本・大阪へと渡り,その子供たち共々差別や偏見と闘いながら生き抜いていく姿を描いたミン・ジン=リーの大河小説「パチンコ」は,物語が宿す力に国境はない,という当たり前のことを改めて思い知らされる力作だった。リー・アイザック=チョンの作品「ミナリ」もまた同様に,異国に活路を求めて海を渡った韓国の家族が苦難を乗り越えようと奮闘する姿を描いた物語だ。かつて故キム・ギドクやホン・サンスなどがヨーロッパの映画祭で注目された時期に続いて,昨年のポン・ジュノ作品「パラサイト 半地下の家族」と同様に,本作もまたアカデミー賞をはじめとする今年のアメリカ映画界の賞レースを賑わせており,韓国系映画人の活躍はBTS何するものぞと言わんばかりのエネルギーが満ちているように見える。

1980年代初頭,アメリカのアーカンソー州のトレーラーハウスに韓国人一家四人が移住してくる。両親はヒヨコの雌雄を鑑別する工場仕事をするかたわら,荒れ地を耕して野菜を植え,その収穫で一旗揚げようと奮闘する。一家の姉弟のうち男の子は心臓に持病を抱えており,走ることは出来ないのだが,父親の仕事を傍で見守りつつ,後からやって来た母方の祖母との交流を深めていく。しかし経済的な苦境が原因で諍いが絶えない両親は,家族の将来を巡って決定的な口論となった夜,ある事件が起こる。

最近,ポリティカル・ライトネスの観点から種々の問題を指摘されているらしいが,かつて日本でも人気を博したTVドラマ「大草原の小さな家」を彷彿とさせる設定を,韓国人家族と1980年代にコンバージョンした物語は,米国南部に位置する美しいアーカンソー州の田舎の風景を背景に殊の外淡々と進んでいく。上述したように「大草原〜」と異なり,両親の間で諍いが絶えないという点や,家族に協力を惜しまない典型的な「レッドネック」の老人が毎週日曜日に大きな十字架を引き摺って道を行くプロットなどがアクセントとなってはいるものの,実にスムースに時間が過ぎていく。言ってしまえば,一家が陥る苦境があまりにも整い過ぎていて,次第に「苦難をこなしている」という感覚が生まれてくるのだ。

そんな物語を救ったのは,匂いのきつい香辛料と共に韓国からやって来たおばあちゃんだ。韓ドラの世界では有名な俳優らしいが,姉弟と共に悪態をつきながら花札を教えるシーンはまるで「BTSばかりが成功の道ではないんだよ」と子供たちに教え諭しているかのようだった。弟の命を救ったおばあちゃんのセリこそが,予定調和の罠から映画をも救ったのだった。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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