脚本家に野島伸司(フジ「薔薇のない花屋」)や大森美香(TBS「エジソンの母」),原作・原案では島田雅彦(フジ「あしたの喜多善男」)に万城目学(フジ「鹿男あおによし」)。2008年冬シーズンのドラマは,製作陣に多彩なビッグネームが揃った。
名前に見合う順調なスタートを切った番組もあれば,勢い余って前のめりになっている番組もありと,滑り出しは様々だが,初回もしくは2回目を終えた所でのレビューを敢行してみたい。
最も興味を引かれたのは,島田雅彦の原案を,サイコものでもないのに何故か飯田譲治がドラマ化し,小日向文世が主役を張った「あしたの喜多善男」。今日から11日経ったら死ぬ,と宣言した中年男を巡る因縁話だが,ミステリー仕立てのオープニングと,松田龍平の勢い,小西真奈美のミステリアスなキャラクターが,今後の展開に期待を持たせる出足を見せた。
しかしある程度は予想されたことだが,やはりどうも「ブンガク」の味付けが強い。小日向の別人格が出てきて,大真面目で本人と対話を始めるに至っては,TVのドラマなんですけど,と突っ込みを入れたくなったりもする。
だが,そんなちょっとばかり肩に力の入った画面を救っているのが,売れないアイドル役の吉高由里子だ。「転々」のときの不思議な女子高生役を更にデフォルメしたような,緩くてズレた空気は,ブラウン管の中(残念ながらまだ液晶ではない)でも際立っている。保険調査員役の生瀬勝久と彼女が,ドラマの求心力たる存在となっていけば面白いのだが。
売り出し中の若手,万城目学の原作を,「恋ノチカラ」の相沢友子が脚本にした「鹿男あおによし」は,前クールの「歌姫」の舞台となった映画館(オリオン座)のように,主人公の玉木宏が下宿する下宿屋のセット一発で,視聴者をノックアウトしたはずだ。
このセットに象徴されるように,奈良というエンターテインメントの世界においてはこれまであまりスポットライトが当てられてこなかった,しかし宝箱のような街の景色には,不思議な物語に対抗できるだけの磁力があるようだ。
「のだめ」の推進力がまだ残っているような玉木と,干物女で開花したコメディエンヌ綾瀬はるかのコンビも,細かなニュアンスには欠けるうらみはあるが,奇妙な話の展開を凌駕するパワーを持ち得る可能性を十分に感じさせて,期待は募る。
一方で,月9に帰ってきた野島伸司の「薔薇のない花屋」は,2回目までを観た限りにおいては,娘役の雫を除いて登場人物が皆,妙に人形じみて見え,何故だか疲れる。
香取慎吾の唇だけを使った,過度にゆっくりとした喋り方も,トリックスターをあてがわれた松田翔太の過剰な軽さも,かえって物語を重々しくしているように見えるし,スポットCMで何度も流されている山下達郎の主題歌も心なしか冴えない。香取の死んだ恋人(妻か?)の父親らしい三浦友和も,先述の「転々」で獲得した,人生の重さを肩に食い込ませつつも飄々と生きる男の後ろ姿はどこへやら,力みばかりが目立つ結果となっている。
ドラマの代名詞とも言える枠に相応しい雰囲気を求めたスタッフ,キャストの努力が空回りしている状況は,果たして落ち着きを見せるのか,その可能性は決して高くはない,と見たが,どうだろうか。(この項続く)
名前に見合う順調なスタートを切った番組もあれば,勢い余って前のめりになっている番組もありと,滑り出しは様々だが,初回もしくは2回目を終えた所でのレビューを敢行してみたい。
最も興味を引かれたのは,島田雅彦の原案を,サイコものでもないのに何故か飯田譲治がドラマ化し,小日向文世が主役を張った「あしたの喜多善男」。今日から11日経ったら死ぬ,と宣言した中年男を巡る因縁話だが,ミステリー仕立てのオープニングと,松田龍平の勢い,小西真奈美のミステリアスなキャラクターが,今後の展開に期待を持たせる出足を見せた。
しかしある程度は予想されたことだが,やはりどうも「ブンガク」の味付けが強い。小日向の別人格が出てきて,大真面目で本人と対話を始めるに至っては,TVのドラマなんですけど,と突っ込みを入れたくなったりもする。
だが,そんなちょっとばかり肩に力の入った画面を救っているのが,売れないアイドル役の吉高由里子だ。「転々」のときの不思議な女子高生役を更にデフォルメしたような,緩くてズレた空気は,ブラウン管の中(残念ながらまだ液晶ではない)でも際立っている。保険調査員役の生瀬勝久と彼女が,ドラマの求心力たる存在となっていけば面白いのだが。
売り出し中の若手,万城目学の原作を,「恋ノチカラ」の相沢友子が脚本にした「鹿男あおによし」は,前クールの「歌姫」の舞台となった映画館(オリオン座)のように,主人公の玉木宏が下宿する下宿屋のセット一発で,視聴者をノックアウトしたはずだ。
このセットに象徴されるように,奈良というエンターテインメントの世界においてはこれまであまりスポットライトが当てられてこなかった,しかし宝箱のような街の景色には,不思議な物語に対抗できるだけの磁力があるようだ。
「のだめ」の推進力がまだ残っているような玉木と,干物女で開花したコメディエンヌ綾瀬はるかのコンビも,細かなニュアンスには欠けるうらみはあるが,奇妙な話の展開を凌駕するパワーを持ち得る可能性を十分に感じさせて,期待は募る。
一方で,月9に帰ってきた野島伸司の「薔薇のない花屋」は,2回目までを観た限りにおいては,娘役の雫を除いて登場人物が皆,妙に人形じみて見え,何故だか疲れる。
香取慎吾の唇だけを使った,過度にゆっくりとした喋り方も,トリックスターをあてがわれた松田翔太の過剰な軽さも,かえって物語を重々しくしているように見えるし,スポットCMで何度も流されている山下達郎の主題歌も心なしか冴えない。香取の死んだ恋人(妻か?)の父親らしい三浦友和も,先述の「転々」で獲得した,人生の重さを肩に食い込ませつつも飄々と生きる男の後ろ姿はどこへやら,力みばかりが目立つ結果となっている。
ドラマの代名詞とも言える枠に相応しい雰囲気を求めたスタッフ,キャストの努力が空回りしている状況は,果たして落ち着きを見せるのか,その可能性は決して高くはない,と見たが,どうだろうか。(この項続く)