子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

Paul Weller「22 Dreams」:かかってきなさい,と言わんばかりのソロ最高作。

2008年07月11日 23時47分24秒 | 音楽(新作レヴュー)
2006年にブリット・アウォーズの功労賞を受賞し,今年の5月にはとうとう50代に突入した(元)怒れる若者のポール・ウェラーが発表した新作は,音を創り出す歓びに溢れた21曲全てが瑞々しい輝きを放っている傑作だ。引退を口走っているという噂もある大御所だが,これは本当に,思いもかけない収穫だった。

ポール・ウェラーと言えば,モッズとパンクの間に橋を架け,ザ・ジャムからザ・スタイル・カウンシル,そしてソロ時代を通じて,常にブラック・ミュージックを傍に置きつつ,道を究めんと突っ走ってきた,生真面目なスタイリストという印象が強い。だからどのアルバムも(それぞれ狙った線は違っていても)密度は濃く,質も高いものばかりだが,どこかで肩に入った力が邪魔して,リラックスして楽しむ対象とは言い難い存在だった。

それがどうだ。このとっ散らかり具合は。
例えば,ノエル・ギャラガーとの共作が話題の14曲目「Echoes Round The Sun」。歪んだギターとストリングスに引っ張られ,延々と繰り返されるリフに,どこか吹っ切れた爽やかさを感じていると,いきなりムード歌謡曲と紙一重のタンゴ「One Bright Star」に切り替わる。まるで場末のナイトクラブのステージ中央に,ぽつんと置いてきぼりにされたような気分に浸っているうちに,今度はピアノと弦が奏でるインストゥルメンタルの子守歌「Lullaby Fur Kinder」が始まる。続く「Where'er Ye Go」は,泰然としたヴァイオリンの響きがジャクソン・ブラウンの「Late For The Sky」を思わせるような静かなバラッド。と,この4曲を取っただけでも,これまでの特徴だった整合性を重んじるスタイリッシュな流れとはほど遠いばらけ方を見せる。そして,このばらけ方が,肩の力が抜けたパワフルさに繋がっているところが,実に素晴らしい。

張り詰めた緊張感が,前向きな陽性のエネルギーへと変わるきっかけが,噂通り引退ということだったのならば,諸手を挙げて祝福するという訳には行かないが,取り敢えず今は,パンク勃興期から様々なチャレンジを行ってきた末に到達した,CDジャケットが象徴している「楽園」の日溜まりのような境地を,純粋に楽しみたい。
★★★★


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