子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「勝手にふるえてろ」:日本映画史上,最強の美女コメディエンヌの誕生か

2017年12月30日 23時09分44秒 | 映画(新作レヴュー)
松岡茉優。旬の女優であるにも拘わらず,私は「あまちゃん」も「コウノドリ」のいずれも熱心な視聴者ではなく,「桐島,部活やめるってよ」の印象もおぼろげ。唯一「問題のあるレストラン」での「持ってる非リア充少女」役でのみ,ひょっとしたら化けるかも,という予感を感じた女優さんだが,知らない間に化けるどころか,こんな痛くて笑える作品の座長を務めるまでに成長していたとは!
綿矢りさの原作も未読,大九明子監督の名前すら知らなかった不勉強をも併せて,素直に深々と頭を下げたい気分だ。

玩具会社の経理を務める内向きOLヨシカの恋愛劇。だが恋愛劇といっても,ヨシカの本命は交際したことも告白をされたこともない中学時代の同級生。彼が一番の「一」(北村匠海)で,同じ会社の同僚はそのつなぎ的な立ち位置である二番目の「二」(渡辺大知)。片思いを引き摺りながらもそれを成就させるために何も行動を起こせない日々を,何とか過ごしていくためにヨシカが考え出した現実社会への対応方法が,日常生活で接する人々との脳内会話だった。これがおきゃんな松岡のキャラクターと抜群の親和性を発揮し,おじさんは年末を腹を捩るくらいの笑いで締め括ることができたのだった。

この脳内仮想会話劇は,綿矢りさの原作に負うところも多かったのかもしれないが,一歩間違えば「付いてこられる人だけ」「分かってくれる人だけ」にウケれば良いという,極端に若い層にターゲットを絞った楽屋オチに陥りそうな危険性を内包していたのだが,相手役の受けの巧さと何と言っても松岡の柔軟かつスピーディーなレスポンス,更には的確な構図をバシバシ決めたカメラに代表される撮影・編集技術の結集によって,その罠を見事に回避することに成功している。
アンモナイトの化石を抱いて歓び,男性と付き合ったことがないという実態を悪気のない同僚(石橋杏奈)に暴かれたが故に,嘘の妊娠を申告して会社を辞める。内向的OLが内に秘めたパワーを全開させたらこうなるというヒロインの姿を,安易に戯画化せず,あくまで地に足の付いた女性として立体化した松岡とスタッフの技量は特筆すべきものだ。ヨシカのエネルギーは,私の今年のベスト「ありがとう,トニ・エデルマン」のヒロインと殆ど同レヴェルにまで達していると言っても過言ではないくらいだ。

それにしても松岡茉優。これからが本当に楽しみだ。このままコメディエンヌとして突っ走って欲しい反面,「浮雲」の高峰秀子のような役も見てみたい。注文は,どんなに大きくなっても本作の役柄同様に掃除のおばちゃんに気さくに話し掛ける「おねえちゃん」で居続けていてね,ということだけ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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