子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「裏切りのサーカス」:スパイ全盛期の冷戦時代を「郷愁」で括らないという見識
ジョン・ル=カレの長大な原作を読んだのは,もう4半世紀も前。まさかこの時期に,「スマイリーもの」の決定版といわれる作品の映画化が観られるとは思わなかった。それもゲーリー・オールドマンという,一見スマイリー的重量感とは趣を異にすると感じさせる役者を核に据え,スウェーデン出身の新鋭監督のメガホンという誂えで。
そんな新たな装いで現れた「裏切りのサーカス」は,言語と論理と演技と映像感覚とが,これ以上ないというくらいにぎっちりと詰め込まれた高品質のスリラーだった。私の弛緩した頭脳でのんびりと楽しむには,やや密度が高過ぎるくらいに。
この重厚なスパイ小説を,人物を正面から捉えたショットを中心とするスタイリッシュな映像と,大胆な省略とジャンプの連続によってコンパクトにまとめて見せたのは「寒い国から来たスパイ」ならぬ,スウェーデンのトーマス・アルフレッドソン。「ぼくのエリ 200歳の少女」で私をノックアウトした才人は,今度は前作の5倍くらいの登場人物を舞台に上げつつも,臆することなく冷徹な視線と独自の編集感覚を貫き通して,ミステリー好きに挑戦状を叩き付けている。私は全編フックと伏線のオンパレードのような128分を観終える頃には,フルマラソンを完走したような(実際にはしたことないけれど)疲労感に襲われた。
ただ,余りに昔のことゆえ細部は憶えていないにせよ,一応は原作を読んでいる私が,人間関係のおさらいと,台詞と描写の関係を追いかけるのに必死だったことを思うと,どんなにミステリー慣れしている観客でも,一度で様々な仕掛けを楽しみつつ行間の余韻に浸る,という鑑賞状態に入ることは至難の業なのではないかと思われた。
映像からは時折「ぼくのエリ 200歳の少女」にあった胸の奥底をチリチリと焦がすような,透明なロマンティシズムの欠片を窺うことが出来ただけに,駆け足の謎解きダイジェストに留まってしまっている部分は,倍くらいの時間をかけて欲しかったというのが正直な感想だ。
入場時に「リピーターは1,000円」というチラシを配っていたことからして,配給側でもその辺の加減は充分に承知しているようだったが,類希な編集感覚の持ち主アルフレッドソンには,是非ともこの経験を次作の選定に活かしていただきたい。
原作で「美人」と表現されていた覚えのあるスマイリーの妻が,最後まで顔を見せない演出には多少不満を憶えたが,肝心のオールドマンのスマイリーは,素晴らしかった。ちょうど原作を読んだ当時に観たオールドマンの実質的なデビュー作「プリック・アップ」の主人公が,酸いも甘いも噛み分けた初老のスパイを完璧に演じるなんて,これが一番嬉しい「裏切り」かも。
★★★☆
(★★★★★が最高)
そんな新たな装いで現れた「裏切りのサーカス」は,言語と論理と演技と映像感覚とが,これ以上ないというくらいにぎっちりと詰め込まれた高品質のスリラーだった。私の弛緩した頭脳でのんびりと楽しむには,やや密度が高過ぎるくらいに。
この重厚なスパイ小説を,人物を正面から捉えたショットを中心とするスタイリッシュな映像と,大胆な省略とジャンプの連続によってコンパクトにまとめて見せたのは「寒い国から来たスパイ」ならぬ,スウェーデンのトーマス・アルフレッドソン。「ぼくのエリ 200歳の少女」で私をノックアウトした才人は,今度は前作の5倍くらいの登場人物を舞台に上げつつも,臆することなく冷徹な視線と独自の編集感覚を貫き通して,ミステリー好きに挑戦状を叩き付けている。私は全編フックと伏線のオンパレードのような128分を観終える頃には,フルマラソンを完走したような(実際にはしたことないけれど)疲労感に襲われた。
ただ,余りに昔のことゆえ細部は憶えていないにせよ,一応は原作を読んでいる私が,人間関係のおさらいと,台詞と描写の関係を追いかけるのに必死だったことを思うと,どんなにミステリー慣れしている観客でも,一度で様々な仕掛けを楽しみつつ行間の余韻に浸る,という鑑賞状態に入ることは至難の業なのではないかと思われた。
映像からは時折「ぼくのエリ 200歳の少女」にあった胸の奥底をチリチリと焦がすような,透明なロマンティシズムの欠片を窺うことが出来ただけに,駆け足の謎解きダイジェストに留まってしまっている部分は,倍くらいの時間をかけて欲しかったというのが正直な感想だ。
入場時に「リピーターは1,000円」というチラシを配っていたことからして,配給側でもその辺の加減は充分に承知しているようだったが,類希な編集感覚の持ち主アルフレッドソンには,是非ともこの経験を次作の選定に活かしていただきたい。
原作で「美人」と表現されていた覚えのあるスマイリーの妻が,最後まで顔を見せない演出には多少不満を憶えたが,肝心のオールドマンのスマイリーは,素晴らしかった。ちょうど原作を読んだ当時に観たオールドマンの実質的なデビュー作「プリック・アップ」の主人公が,酸いも甘いも噛み分けた初老のスパイを完璧に演じるなんて,これが一番嬉しい「裏切り」かも。
★★★☆
(★★★★★が最高)
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