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The Durutti Column「The Best Of」:長い時を超えて響く柔らかくも強靱な音

2009年08月08日 16時35分18秒 | 音楽(アーカイブ)
ザ・ドゥルッティ・コラム。1980年頃のイギリスにおけるマイナー・レーベルの動向に,少しでも関心があった音楽ファンならば,特別の感慨を抱かずにはいられない名前だ。
夜明け前の薄明かりの中から聞こえて来るような,リヴァーブとディレイを駆使したギターが持つ独特の響きは,世界のきしみに耐える辛さと解放感の両方を湛え,30年という時を超えて,今も新鮮に響く。

当時,新しい音を模索し続けていた冒険的なレーベルの中でも,両雄並び立つという印象のあった「ファクトリー」と「ラフ・トレード」のうち,最後まで日本盤が出なかったのは「ファクトリー」の方だった。
必然的に日本に入ってくる情報が極めて少ない,という状況下で,ピーター・サヴィルの一連のアートワークと,当時人気絶頂だったジョイ・ディヴィジョンを率いていたイアン・カーティスが,自ら命を絶ったという衝撃的なニュースが相俟って,レーベル自体が「神格化」していった,というのが当時の「ファクトリー」に対する私の印象だ。実質的にはヴィニ・ライリーのソロ・プロジェクトであるこのザ・ドゥルッティ・コラムも,そんなレーベルを構成する貴重な要素の一つだったのだ。

イアン亡き後,残されたメンバーが結成したニュー・オーダーが,ジョイ・ディヴィジョン時代には想像もできなかったような世界的規模の大成功を収める一方で,ザ・ドゥルッティ・コラムが地味ではあっても,これだけの長い期間活動を続けてこられたのは,ある意味で奇跡と言えるのかもしれないと,ようやく手に入れたこの「The Best Of」を聴きながら思う。

2枚組30曲2.4時間という大部のベスト盤には,プロデューサーのマーティン・ハネットとの共同作業によるデビュー作,イアン・カーティスに捧げたシングルの「Lips That Would Kiss」,そして当時録音したカセットテープが擦り切れて変な音に変わってしまったセカンド・アルバムの「LC」という,当時愛聴した3枚のレコードからもたくさんの曲が選ばれている。突き詰めていくと,曲の構造はワンパターンなのだが,深い響きを伴って爪弾かれるメロディの美しさは比類なく,懐かしさを感じると同時に,実にユニークで包容力に満ちた音楽だと改めて感じ入っている。アマゾンのレビューの中に「(レッチリの)ジョン・フルシアンテが最も影響を受けたギタリスト」というコメントがあったが,ジョンの最新ソロを聴くと,それも「むべなるかな」と素直に納得。

ただ驚いたのは,若い頃あんなに何回も聴き返して,今も時折頭の中でメロディが鳴り響く「Never Known」という曲が,実は純粋なインストゥルメンタル曲ではなく,ヴィニの呟くようなヴォーカルが被さっていたということ。しかし人間,いや自分という人間の,記憶の不確かさを思い知らされて思わず頭を垂れる私にも,ヴィニのギターはあくまで優しく,包みこむような柔らかさを響かせるのであった。


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