子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

2009年TVドラマ夏シーズンレビューNO.5:「任侠ヘルパー」

2009年08月05日 00時43分33秒 | TVドラマ(新作レヴュー)
今クールのドラマに進出しているジャニーズ勢が総じて一時の勢いを失い,内容的にも視聴率的にも苦闘を強いられている中,唯一人(主に火曜10時枠における)過去の栄光を継承しているように見えるのが,フジ「任侠ヘルパー」の草剛だ。
初回の視聴率17.5%も天晴れな数字だったと思うが,一通り話が落ち着いた第4回に至って,それを凌ぐ17.8%を挙げたことは,快挙と言っても良いだろう。

暴力団を構成する複数の組の組長が,幹部の座を競って,何故か老人福祉施設のヘルパーを務める。極道と福祉という,一見誰もが対極にあると感じるであろう二つの職業を結びつけた発想の妙に加えて,草剛の本格復帰,黒木メイサに夏川結衣,更には草の後輩である薮宏太の起用というキャスティングも話題を呼んで,好稼働に結びついたものと推測される。

しかしドラマの内容は,これまでのところ,数字に見合った充実度を備えているとは言い難い。極道と福祉の脈絡のない結合は,展開的にはそれ程無理を感じさせないのだが,問題は登場人物の設定にある。
ここまでの物語は,施設の仕事に批判・消極的な主人公翼彦一(=草)が,老人ホームで起こる問題に対して,当初は無関心を装いながらも,最後には「任侠道」から発する義憤から立ち上がる,というパターンを取っている。
本来の任侠ドラマであれば,クライマックスで盛り上がるはずの展開が,どうにも消化不良の印象を与えるのは,彦一がこの仕事に就く前に,老人相手の振り込め詐欺で糊口を凌いでいた,というエピソードをわざわざ挿入していることにある。

それによって,それまで老人を金づるとしか捉えていなかった人間が,その扱い自体,詐欺と五十歩百歩の振る舞いをする第三者に対して,「それは人の道を外れている。許せない!」と憤ることが,根本的な説得力を欠いてしまっているのだ。
それは,キャラクターの設定時のブレが,振り込め詐欺で老人から有り金を搾り取ってきた行為と身体的な虐待を加えることの相対化が,ドラマの中で行われていない,という構造的な問題に発展してしまった,と見ることも出来る。キャラクターの設定こそが,意表を突いたドラマを構築していく上で,最も慎重且つ大胆に取り組むべき課題だったはずなのに,という不信感は簡単には拭えない。

今回のキャスティングで当たったのは,草と表社会の橋渡し役となる先輩ヘルパー役に抜擢された仲里依紗だろう。一方で,草と反撥しつつ共鳴もするという難しい役どころの,夏川結衣に関する書き込みはまだ足りないような気がする。敵方でありながら,正論を凌駕する現実主義者としての迫力が出てくるのは,後半以降か。
高齢者福祉を真っ向から捉えたドラマは少ないだけに,先に挙げたキャラクター修正の問題と共に,施設の現状をリアルに切り取る工夫と,保険制度やヘルパーさんの報酬の問題を採り上げることで,草=夏川チームが闘う敵方(制度≒国家)を新たに浮き上がらせることを期待したい。


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