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映画 2018年上半期レビュー落ち穂拾い(その2)

女は二度決断する:★★★★
ヨーロッパで進む移民排除,ポピュリズム政治の台頭という流れの中で,NIMBY的かつ民主主義・法治主義を信頼する表層的な良識のようなものを,文字通り木っ端微塵に吹き飛ばしてしまうような母の決断を描いた作品。トルコ出身のファティ・アキンが,今自分こそがこの問題を取り上げないといけない,という強い責任感に背中を押されて撮り上げた作品だということが,すべてのショットから伝わってくる。ダイアン・クルーガーの演技は,家族への愛と犯人への怒りと,それを昇華するために必要な冷静な思考と判断のすべてを過不足なく表現して見事だ。

終わった人:★★☆
中田秀夫の安定した作劇術が光るが,予定調和の展開は,対象となった高年齢層限定の感が強い。貞子を出せ,とは言わないが,妻にも疎んじられた男の孤独に対する恐怖は,中田十八番のホラー的要素との親和性が高かったのではないか。結果的にそっちの方向性を選択しないのであれば,もっと逆方向に舵を切って,思い切ってコメディ要素を強めるべきだったのではないか。唯一,主人公(舘ひろし)が定年退職後に通った文化教室の受付嬢(広末涼子)との浮気が不首尾に終わったことを,娘(臼田あさ美)に軽く見破られて同情されてしまうシーンは秀逸。

犬ヶ島:★★★★☆
全編に亘って,通り一遍ではない日本の「混沌」に対するウェス・アンダーソンの親愛の情がこぼれ落ちる,珠玉のストップ・モーション・アニメ。水平・垂直方向に拘わらず,対象を正面に据えるカメラ・アングルが醸し出すのは,アンダーソン作品に特有の一歩引いて世界を眺めるシニカルな空気と,かつて紙芝居が持っていたであろうわくわく感。膨大な情報量と制作に注ぎ込まれたエネルギーを充分に咀嚼するには,一度の鑑賞では足りない。スカーレット・ヨハンソンが声優を勤めるナツメグの艶っぽさは,生身の演技を凌駕する。黒澤明が生きていたら,力一杯アンダーソンをハグしたことだろう。
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