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映画「ダブリンの時計職人」:スコットランドの行方や如何に?

4日後に迫ったスコットランドの独立の是非を問う住民投票は,昨日行われた世論調査では不利を伝えられた独立反対派が巻き返して過半数を上回る勢いということだが,独立戦争を経て1949年に共和制へ移行したアイルランドの過酷な現実を背景にした本作の主人公なら,どんな風にこの報道を見ているのだろうか。そんな,映画とは直接関係のない時事を考えてしまったのは,ロンドンで失業して故郷のダブリンに戻ってきた時計職人である主人公のキャラクターが,実にリアルで魅力的だったからだ。

ダブリン港に面した駐車場に駐めた車で暮らすフレッドは,毎日トランクに積んであるタンクに貯めた水で歯を磨き,駐車場で「同居」する若者カハルに教えて貰ったプールで泳ぎ,同じくカハル直伝のドリフトを試しては小さな歓びにひたる。何処から見ても気の良い普通の「おじさん」だ。
映画はそんなおじさんが陥る窮地を生み出した,社会の厳しい現実を糾弾するでもなく,仕事にあぶれ麻薬に向かってしまう若者のやり場のない怒りを中心に据えるでもなく,フレッドと,フレッドがプールで出会ったフィンランドから来た未亡人ジュールスとの淡い恋と,カハルとの交流を,淡々と描いていく。

フレッドの佇まいがすべてと言っても良い映画を支えるのは,アラン・パーカーの秀作「ザ・コミットメンツ」で主人公の父親役を演じたコルム・ミーニイ。誠実と見栄と謙虚が混ざり合った初老の男の悲哀を,時計の小さなネジを廻す指先で表現するかのような演技は,マンハイム=ハイデルベルク国際映画祭という,まさに職人のために作られたかのようなネーミングの映画祭での戴冠に相応しいものだ。
カハルとその父親の間のエピソードが,感動的なクライマックスに繋がるブリッジ部分がやや弱いが,ラストのフレッドとカハルの父親の会話に滲む悔恨と情愛は,ダブリン港に打ち寄せる波頭よりも激しい。
原題「PARKED」(駐車中)を,邦題に変えた配給会社の英断にも拍手。
★★★
(★★★★★が最高)
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