子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「私は生きていける」:世界の破滅の淵で俵に足をかける少女

2014年09月20日 11時57分50秒 | 映画(新作レヴュー)
シアーシャ・ローナン。13歳でジョー・ライトの佳作「つぐない」に出演した少女は,この7年の間に,父親から手ほどきを受けた熟練の殺人者になったり,変質者に殺されるが,亡霊となって復讐を果たしたりと,過酷な人生を幾つも演じてきた。意志の強い眼差しは少女の時のままに,強く美しい20歳の女性へと変身を遂げた彼女は,新作においてもまたもや試練を課される。今度の課題はテロリストとの間で勃発した第3次世界大戦を生き延びることだった。

ケヴィン・マクドナルドの新作「私は生きていける」でローナンが演じるのは,アメリカからいとこたちの住むイギリスにやって来た16歳の少女。潔癖で頑なだった彼女は,やがて年上のいとこと恋に落ちるが,戦火によって無慈悲に引き裂かれる。戦火が激しくなる中,いとことの再会を決意した彼女は,幼い従妹を連れて命を賭けた逃避行に出る。

ロンドンが核攻撃に遭うという事態にまで発展する「戦争」そのものに関する詳しい説明はなく,かつて暮らした家を目指す旅の困難さを示す距離も明らかにはされない。それでも,離ればなれになった家族や愛する人との再会を夢見て懸命に歩き続ける彼女たちの姿から伝わってくるのは,人々が選択した「戦争」という行為が持つ理不尽さだ。それは戦争によって翻弄される,市民に関する直接的な描写以上に,彼女たちが全うする逃避行の舞台となる,緑濃い森林の圧倒的な豊かさとの対比によって,一層鮮やかになっていく。

ローナンがいとこと恋に落ちていく過程は紋切り型だし,子供たちだけで暮らす森の楽園の描写は叙情に流れすぎているきらいはあるが,その場面でバックにニック・ドレイクを使うセンスや,フェアポート・コンベンションをまるで時代遅れの演歌のように扱う冒頭のユーモアなど,イギリス映画らしい捻りも利いている。
だが少女と大人の境界でゆらぐローナンの繊細な演技こそが,「生きていける=戦争なんかに負けはしない」というテーマを体現していることに疑いはない。イギリス系の監督(ライト,マクドナルド,ピーター・ジャクソンら)に育てられた彼女が,ハリウッドでも「ハリウッドらしくない色を持った花」を咲かせる日はそう遠くないはずだ。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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