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2008年夏シーズンTVドラマレビューNO.1

いつ果てるともなく続いた演説が功を奏したのかどうかは分からないが,結局今クールの最高視聴率を叩き出した「CHANGE」が最終回を迎えたことを以て,ようやくTVドラマ界は完全に夏シーズンへと切り替わった。

そのレビューを行う前に,その「CHANGE」について一言触れておきたい。
視聴率的にはV字型で尻上がりに支持を広げていったようだが,始まった段階で一度書いた印象は,残念ながら最終回まで行っても好転することはなかった。
朝倉邸において展開された疑似家族のコメディとしてならば,格別な面白さを持ったものが生まれそうだったにも拘わらず,政治ドラマとしては序盤で簡単に底を見せてしまった恨みを回復することは出来なかった,という印象だ。

弱点は沢山あったのだが,ここでは既に書いたこと以外に,主なものを2つだけ挙げておきたい。
一つは,政界という魑魅魍魎が跋扈する「魔界」の持つ力を多面的に描く方法は幾らでもあったはずなのに,それを権勢欲に塗れた神林官房長官(寺尾聡)単独の陰謀に代表させてしまったこと。それによって,単純で解りやすい「善悪」の図式を獲得した代わりに,どろどろした得体の知れない敵の存在があってこそ生まれたはずの,ドラマの奥行きを手放してしまったことは,意図的とは言え,残念だった。

もう一つは題名にも戴いた「CHANGE」というスローガンを謳っておきながら,政界の圧力や権力,しがらみと闘う主人公が,実は元々持っていた人間力によって周囲を変えるだけで,自らは変わる素振りすら見せずに,するすると物語を進めていってしまった,という点だ。
ある種の連続ドラマ(勿論,全てではないのだが)に必要な躍動感は,登場人物が様々な出来事と遭遇することによって,変革していくダイナミズムにある。この「CHANGE」では正に,子供に教えられないことはしない,という正論だけで難局を乗り越えて行けるかのどうかについて,朝倉首相が苦悩するところに焦点が当てられて然るべきだったのに,肝心なところが簡単にスルーされてしまったという印象は否めない。

話題になった長い演説にも私が心を動かされるところがなかったのは,おそらく物語にとって大切な部分が何だったのかを,制作陣がしっかりと押さえていなかったことの証左という気がしてならない。要は,私はあの演説で,首相が何を訴えたかったのかがよく分からなかった,ということなのだ。
まぁ,視聴率だけを見れば,私のような受け止め方が少数派なのは承知しているが,やはり数字が全てではないはずだ,とは言っておきたい。

で,ようやく話は夏シーズン。既に早いドラマは3回を終えているのだが,初回,2回目辺りを覗いてみて,当たり・外れは付けられつつある。
今回の特徴として挙げられるのは,ここしばらく隆盛を誇っていた弁護士ものが,役柄に痕跡を残す「モンスターペアレント」だけに留まったこと。これに対して医療ものは,相変わらず複数が顔を揃えており,同様にターゲットを絞りやすく,手堅く視聴率を稼げる学園ドラマも硬軟取り揃えてみました,という感じだ。

TVドラマの枠を広げるような(例えば前々クールの「鹿男あおによし」や2年前の「結婚できない男」等々)新しいチャレンジは見られず,社会派の意欲作も見当たらない。これでは,視聴率の低落傾向に歯止めはかからないだろう,と思っていたら,さにあらず。ジャニーズ系俳優の出演作を中心に,多くが10%台をキープしており,一桁台は少ないようだ。
事ほど左様に私の見立てはアテにならないのだが,そんなことにはめげず,粛々とレビューをしていきたい。

最初に,既に脱落した作品から。
金曜日のTBS「魔王」は,韓国の人気ドラマの翻訳物だそうだが,大野智、生田斗真という主演俳優が,どうしても敏腕弁護士と辣腕刑事には見えなかったので,早々にパス。
満を持してのドラマ出演だと思われる大野は,今年28歳という年齢を考えると決して突飛な配役ではなかったはずだが,心の闇の部分を表現することを要求される今回の役は,「経験」というよりも役者の「タイプ」の適性の面で,かなり距離があったのではないか。生田は力が入れば入るほど,チュートリアル徳井義実の弟にしか見えず,どこかでボケをかましそうな気がしてならない。それでも平均で13%取れているのだから,私の出る幕ではないようだ。

同じくTBS日曜日の医療ドラマ「Tomorrow」は,地方における医療のあり方,医者不足,病院経営,そして医療事故などの社会派的視点も盛り込んだ意欲作だった。
しかし,こちらも経営危機に陥った地方の総合病院を,セレブ専用の病院に衣替えしようとして乗り込んできた医師(緒川たまき)と,市民の目線に立った元市職員の医師(竹野内豊)との対立という,単純な図式が浮き上がってきた時点で,かなり興味は削がれたが,決定的だったのは脚本。説明過剰,かつ安直な言葉遣いのオンパレードでは,菅野美穂の魅力は半分も出せない。
エドはるみの婦長は,しっくりし過ぎていて,ギャグがない分,逆に落ち着かなかった。シリアスなドラマへのお笑いの人の登用は,結構難しいものなのかもしれない。

一方で,1回目は松岡昌宏の一本調子の演技に入り込めず,見切ろうかなと思って観た2回目で,これは傑作「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」を意識しなければ,それなりに楽しめるかも知れないと感じたのは,日本テレビ「ヤスコとケンジ」。
ヤクザの2代目という身分を偽りつつ,青春の甘酸っぱさを全身で享受するトウの立った高校生役を,緩急自在,顔面も自在の演技で楽しませてくれた長瀬智也に比べると,ひたすらお怒りモードで力みっぱなしの元ヤンキー(松岡)の設定が物足りなかったのだが,松岡に純情を捧げる広末涼子のコミカルな演技が補ってくれそうな可能性を漂わせている。主題歌は「マイボス~」同様にTOKIOだが,曲は一聴して分かる椎名林檎節。「宙船」の中島みゆき同様の濃い人選が,今回もはまっている。
ただ,関ジャニ∞の大倉忠義も出ていることを考えると,初回の視聴率12.3%というのは微妙な数字だ。これもまた原作もの(マーガレットコミックス)だけに,展開は決まっているのだろうが,表面上は反目し合う二人が,手を組んで立ち向かうような難敵が現れて盛り上がったりするのかどうか,もうしばらく付き合ってみたい。(この項続く)
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