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映画「欲望のバージニア」:男くさい犯罪映画が,いつの間にか「今を時めく2大女優の競演」に

2013年08月19日 23時04分48秒 | 映画(新作レヴュー)
禁酒法時代のアメリカ,バージニア州で,悪辣な行政官の脅しに屈せず密造酒を造り続けた三人の兄弟を,オーストラリア出身のミュージシャンであるニック・ケイヴが脚本にした,というニュースを耳にして以来,楽しみにしていた作品。監督のジョン・ヒルコートは,コーマック・マッカーシーのピューリッツァー賞受賞作「ザ・ロード」の映画化作以来だっただけに,抑制の効いた渋いアクションになっているはず,という期待を抱いていたのだが,ハリウッドの今を代表する二人の女優の思いがけない競演によって,「欲望のバージニア」はそんな平凡な予測を越えた艶っぽさをまとった作品となった。

それでも作品の軸に据えられているのは,次男役のトム・ハーディだ。「ダークナイト ライジング」ではほとんど素顔での出番がなかっただけに,改めて「こんな顔だったのか」という感じで観ていたのだが,深い響きを持つ声は,孤高のギャングに相応しい貫禄と迫力を湛えている。バージニアは東部の州だが,物語の空気は19世紀末の西部劇とシームレスに繋がっているのではと思わせるものがあり,三男シャイア・ラブーフの成長劇として観た時の「父親」のロールモデルとしての役割も,完璧にこなしている。

そんなハーディを,スクリーンのフレームに上手く収める仕事をしているのが,兄弟が経営する非合法の酒場に雇われる流れ者役のジェシカ・チャスティンだ。初めて彼女を観たのは,残念ながら平凡な映画ファンが理解できる範疇を遥かに超えた所に行ってしまったテレンス・マリックの「トゥリー・オブ・ライフ」の中で,ただ一人現実世界との接点を保ち続けたブラッド・ピットの妻役だった。そこをスプリングボードに「ヘルプ」を経由し,「ゼロ・ダーク・サーティー」でついにハリウッドの頂点に立つことになるなんて,当時は全く想像できなかった。そんなスターダムに上り詰めた彼女が,こんな小さな作品に小さな役で出演しながらも,手を抜くことなくしっかりと自分の仕事をしている姿を見るのは,実に気持ちの良いものだった。

もう一人,ラブーフの恋人役で出演したミア・ワシコウスカは,チャスティンに比べると更に小さな役だったが,それでもいつもの「極めて慎ましい色気」を発揮して,作品の格を一つ上げている。
せっかく起用したゲーリー・オールドマンは充分に活かされているとは言えないし,ラストの「マディソン郡の橋」に出てきたような屋根付きの橋で繰り広げられる,撃っても撃っても当たらない銃撃戦はご愛敬だったが,「犯罪を生業とする家族の年代記」としての完成度は及第点に達している。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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