子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「マイレージ,マイライフ」:機長が操縦室を離れて良いのか,という疑問はあったが…

2010年04月13日 22時31分56秒 | 映画(新作レヴュー)
製作に父親のアイヴァンと共に名前を連ねた監督のジェイソン・ライトマンは,どんな物語を紡いでも決して重たくならない,という点で,父親の美点を確実に受け継いでいる作家だ。問題は重たくならずに,深く対象を抉れるか,ということになるのだが,最新作の「マイレージ・マイライフ」を観る限りその点での深化も著しいようだ。様々なジャンルに挑み,それぞれで高いレヴェルの実績を残してきたジョージ・クルーニーの最良の部分を引き出し,彼の代表作とも言える作品を,いとも簡単に作り上げてしまったように見える。

主人公は全米を駆け巡り,様々な企業の社員にリストラを宣告する仕事を高いプロ意識の下でこなし続けるスーパー・ビジネスマン。そんな彼が二人の女性とのリアルな関わりを通じて「今自分が飛んでいる場所の標高」のようなものを確かめようとする物語は,定石という管制官のコントロールから離れ,何処に着くとも知れぬワクワクするような航跡を描く。先が見えない混迷の時代にあって,特殊な職業に就いた特別な男のエピソードを,普遍的かつほろ苦い教訓へと昇華させたライトマンの手腕は,高く褒め称えられるべきものだ。

原題通り「up in the air」という状態にいることが当たり前になってしまった人間が,突然地面に足を降ろさなくてはならなくなった時に感じる戸惑いと,これから離陸しようとする若者にとっての先達としての顔。この相反する二つの要素を自然に同居させて見せたジョージ・クルーニーの演技は,間違いなく彼のピークのひとつとなった。彼の演技を収納する「バッグパック」は,一度の講演会では語りきれない程に膨らんでいるはずだ。
「演技に向き合う姿勢」という点で見れば,アナ・ケンドリックの真摯なトライも,クルーニーに劣らず見事なものだった。鼻っ柱の強さとあどけなさと謙虚に学ぶ姿勢。成長する若者が備えるべき要素を,全て等身大のリアルさで表現できるというのは,並大抵の資質ではない。本作が彼女の本格的なデビュー作として記憶されることは,間違いない。

観客の入りを見る限り,アカデミー賞レースでの無冠は,この作品の価値をいささかも減ずるものではないということを,極東の映画ファンは理解しているようだった。最早シルバー世代に片足を突っ込みつつあるマネーメーキング・スターがいる,ということも含めて,やはりハリウッドの底力は計り知れない。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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