子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「自虐の詩」:いぎでぐ(生きてく)ことに意味はある

2007年11月08日 23時47分26秒 | 映画(新作レヴュー)
中谷美紀が関西国際空港に駆け付けるラストシーン。「くまもとさーん!」と感極まった幸江(中谷美紀)に,「もりたさーん!」と応えるアジャ・コング。
そこに安藤裕子渾身の作「海原の月」がかぶさった時,思わずこみ上げるものを堪えながら心に浮かんだのは「まさか,アジャ・コングに泣かされるとは思わなかった」という思い。参りました。

作り込んだ絵に,薄幸のヒロイン。「嫌われ松子の一生」に先を越された感のある題材だったが,デフォルメした世界にリアリティを持ち込むことにかけては人後に落ちない堤幸彦監督の体質に見事にフィットしたようだ。

寓話を地に付けるに当たっては,人工的な絵に負けない存在感を示して見せた役者陣の頑張りが大きかった。ほとんどサイレント映画状態の阿部寛の視線演技が,中谷の生のままに見える薄幸振りと上手く噛み合って,原作とはひと味違う空間を作り出している。
また,宮迫博之の10年後を観るようなコメディリリーフ,遠藤憲一は決して画面から浮くことなく幸江の不幸を引き立て,カルーセル麻紀は実は幸江以上に不幸な木賃宿のおかみを完璧に演じている。

阿部寛に,自ら声優を勤めた「北斗の拳」を読ませたり,カルーセル麻紀の若い時のポスターでおかみの出自を一瞬で見せたり,といった小技も効いているが,やや緩慢と思われた半ばからの回想シーンのまったり具合が,ラストの感情の昂進に繋がっていく構成が見事だ。
安藤裕子の大々的なフィーチャーと合わせて,「明日の記憶」以上にやり切り感が伝わる出来。


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