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映画「羊の木」:地方公務員に託された日本の未来

2018年02月04日 22時37分52秒 | 映画(新作レヴュー)
「県庁おもてなし課」もそうだったが,錦戸亮は地方公務員役が実によく似合う。なで肩体型だからなのか,今時の若者にしてはスレンダータイプではないスーツに,少し「着られている」感が出ているところが,実直な性格を象徴しているように見える。本作でも狂言回しのように見えて,物語の主人公のようでもあり,はたまた受け容れた移住者たちを信じて良いのか,職務を考慮して再犯を疑った方が安全なのか,立ち位置が定まらない役柄を,巧みに演じている。
山上たつひこといがらしみきおというコミック界のビッグネーム二人がタッグを組んだ原作を,「桐島,部活やめるってよ」の成功で一躍群像劇の巧手となった吉田大八が映画化した「羊の木」は,昨年の収穫のひとつ「ゲット・アウト」を彷彿とさせるような不穏な空気に満ちた出だしで,非ジャニーズ・ファンの観客をもグリップする。

仮釈放となった殺人犯を過疎化が進む地方都市が受け容れる。一見,人道主義に基づく政策に見えながら,囚人の収容にかかる経費を削減したい国と,どんな人でも良いから移住を促進することで人口減少を最小限に食い止めたい自治体の思惑が合致した,架空の設定とは思えないリアルな政策から生まれたコメディともサスペンスとも言える奇妙なドラマだ。
「人が肌で感じることは大概合っている」。仮釈放とは言え,罪を償った「新しい市民」を信じるべきかどうか,6人を受け容れる街の人々の戸惑いは,徐々に錦戸亮が演じる魚深市(富山県内の架空の港町)の市職員月末(つきすえ)の悩みに収斂されていく。それはまるで,かつてこの町を襲い,町の人々に鎮圧された後はこの町の守り神となったという伝説「のろろ」様の再来であると同時に,欧米の課題である難民問題の提起のようにも見える。

「のろろ」様の上陸を祝う祭に満ちているシャーマニズムは強力だし,移住者6人の描き分けも的確だ。特にほとんどスッピンでセックス依存症のような介護士を演じる優香と元ヤクザの田中泯の佇まいには凄みが漂う。田中泯を受け容れる安藤玉恵の巧さも,錦戸亮の対角線上で光っている。
だが,折角作り上げた不穏な空気も,6人の接点が祭の夜の一点に限られ,1対1からトライアングルの関係まで発展していかず,サイコパスの松田龍平のエピソードに絞られていく部分でやや腰砕けとなる。ヴェテラン芦澤明子のカメラも夜間撮影で決定的に光量を欠き,せっかくのクライマックスの迫力も半減してしまっている。市川実日子もやや手持ちぶさたのご様子。芸達者を集めた成果は認めるが,群像劇に昇華できずに「複数演者劇」に留まったという印象だ。「羊の木」の絵の想像喚起力が強すぎたか。
★★★
(★★★★★が最高)


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