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映画「ローマ環状線,めぐりゆく人生たち」:多様な人生を支える都市の懐

「アクト・オブ・キリング」「ある精肉店のはなし」「黄金のメロディ マッスル・ショールズ」等々,今年はドキュメンタリーの当たり年だと思っていたのだが,まだまだ,とばかりにイタリアから素晴らしい作品が届けられた。第70回ヴェネチア国際映画祭で,ドキュメンタリーとして初めてグランプリ(金獅子賞)を獲得した「ローマ環状線,めぐりゆく人生たち」は,大都市ローマに住む人々の暮らしを切り取ることによって,切り口からこぼれ出る詩情を静かに提示して,またもやドキュメンタリーの可動領域を広げて見せる。

没落した貴族の末裔が意識を切り替えられずに,いつまでも偽りの「お殿様生活」を続ける。気象変動を憂う植物学者は,木に巣くう虫がたてる音を聴き続ける。環状線で日々起こる事故対応を生業とする救急隊員は,家に帰れば年老いた母の看護をしなければならない。
ローマという世界有数の大都市を舞台にしながら,彼らの生活を淡々と記録した映像が炙り出すのは,市井の人々が日々生命を繋げる普遍的な力強さだ。
年頃の娘と父親が交わすなにげない会話に滲む愛情に触れる時,想起されるのは,同時刻に同じシチュエーションで繰り広げられているであろう会話を交わす,世界中の人々の暮らしや想いなのだ。

更にいえば,タイトルにもなりながら,ほとんどの場面でフォーカスを合わされることもなく,背景として描かれるのみの「ローマ環状線」の存在。それこそが市民の生活を支える動脈として,沈黙のうちにそこにあるという事実が,やがてゆっくりと浮かび上がってくる。「黄金のメロディ マッスル・ショールズ」の主役ともいうべきスタジオ・ミュージシャンたちのように,名もなく(一応道路名はあるけれど)存在に触れられることもないけれど,なくては困るものを讃える気持ちの芽生えこそが,審査委員長だったベルトルッチをして戴冠を決断させた最大の理由だったのではないだろうか。
★★★☆
(★★★★★が最高)
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