子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「釣りバカ日誌20ファイナル」:時代の必然と言うしかない寂寥感

2010年01月24日 17時41分48秒 | 映画(新作レヴュー)
映画の中程で,獣医師の吹石一恵とその恋人の塚本高史が,離農して中標津から札幌に出て行く中年の夫婦と別れを交わすシークエンスが出てくる。
引っ越し荷物を積んだトラックが農家の敷地を出てくるところに,ちょうど吹石達のRVが到着し,両者が車から降りてくる姿を,移動しながらセミ・ロングで捉えたショットに始まり,逆側のやや寄った地点から撮影したショットが続く。別れを惜しむ4人を撮ったバスト・ショットを挟んで,最後に最初のカットより後ろに引いたロングのショットで締め括る。どうということのない一連のカットなのだが,そこには実に気持ちの良いリズムが流れていた。何気ない出来事が,映画的作法で何気なく描かれるというのは得難いことなのだ,ということを思い知らされる経験が多い昨今,「技術の伝承」がしっかりと行われている場所も存在するのだということを,改めて感じた場面だった。

「男はつらいよ」に続く国民的人気作となったヒット・シリーズの最終作。
原作の漫画は初期作を読んだことがあったが,映画化された作品を劇場で観るのはこれが初めて。そのため22年間に亘って22作品が作られ続けてきたという「歴史」に思いを馳せて,ラストのスーさん(三國連太郎)の引退演説に涙する,ということこそ出来なかったが,松竹ホームドラマの系譜に連なる娯楽映画として丁寧に作られた作品であることは保証できる。

だが,しっかりとした技術をもって丁寧に作られた作品が,それだけで観るものの心を揺り動かすことが出来るかと問われれば,それは違うと答えなければならない。
環境保護や農業振興の大切さに対する目配りを随所に忍ばせながら,不況下の会社の生き残りをテーマの一つとしている本作における最大の問題点は,喜劇の筈なのに全く笑えない台詞のセンスを別にすれば,根本的なキャラクターの設定と物語との間に生じた歪みだと感じた。
職場での厄介者が,実は会社に引き摺られない人生を生きるヒーローであるという設定と,それを活かす物語こそが人気の秘訣ということは承知している。しかし二番底と呼ばれる経済状況にある今のこの国で,業績の低迷に苦悩する小心者の上司(益岡徹)を嘲笑い,趣味を活かすことにより期せずして大仕事を成し遂げるスーパー・ヒーローとしての浜ちゃん(西田敏行)に快哉を叫ぶ観客は一体どれくらいいるのだろうか?

思うように休みが取れず,趣味に注ぎ込む余裕もなくなった浜ちゃんが,釣りか仕事か,という岐路に追い込まれる,という展開は無理にしても,浜ちゃんになりたくてもなれない無数のサラリーマンを勇気付けるような物語が紡ぎ出せないのが今という時代のせいなのだとしたら,「お疲れ様」という以外に本作にかける言葉は見つけられない。最後に西田敏行に支えながらステージに上がった谷啓の姿が痛々しい。
★★★
(★★★★★が最高)


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