では、ホリエモンは新しい時代のカリスマになれるのだろうか。
堀江と同じく東大在学中に、時代に先駆け就職情報を産業にしたリクルートの江副浩正は、
その貧しい育ちへのコンプレックスから、エスタブリッシュメントを目指し、
政治家や財界人に株をばらまいて躓いた。
モノと土地への飽くなき執着に衝き動かされたダイエーの中内功は、
バブル崩壊に伴う土地本位制の互解によつて自滅した。
進駐軍相手の商売から身を起こし、自らユダヤ人と称したマクドナルドの藤田田は、
デフレ時代に「インフレが来る」と予言し、安売り路線を転換して失敗、引退に追い込まれてい
る。
「人の心は金で買える」とうそぶき、マネーゲームにいそしむホリエモンを険悪する人も多い。
江副も中内も藤田も、金への執着、所有欲と支配欲は人並はずれて強かった。
中内は取材のメモをとる私のボールペンまで欲しがった。
まるで自らの欲望を追い立てるかのように、
彼らは事業を拡大していった。
こうした、良くも悪くもアクの強いカリスマたちを前にすると、
六本木ヒルズに住み、ブランドTシャツを着て、
にわかグルメを気取る程度で満足するホリエモンは、
その発言とは裏腹に、
欲望の濃度において遠く及ばない。
私には、そうみえてならない。
カリスマというより、二十一世紀の珍獣といったほうがいいかもしれない。
人間とは、永遠に物語を求める動物であり、
謎を愛しつづける生き物である。
江副や中内や藤田の強烈な所有欲や支配欲は、
人並みはずれた物語を紡ぎだし、
その物語が人々を引きつけた。
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長らく転記、引用させて頂いたが、著作者の経済歴史観がでている作品である。
また、マスメディアの戦後史を的確に表示し、勇気ある随所の表現に敬意したい。
こうした著作者が、日本で健筆を揮える、日本社会の良識も感謝したい。