『 人生100年時代に「ぴんぴんころり」は難しい?
在宅ホスピス医が語る「幸せな最期」につながる「我慢しない」生き方 と題された見出しを見たりした。
そして
ぴんぴんと生き、病気になることなくころりと亡くなる「ぴんぴんころり」を
理想の生き方と考えている人は多くいるだろう。
しかし、人生100年時代とも言われる今、
病気にならずに、ころりと亡くなるのは難しくなっている。
今の時代の「ぴんぴんころり」とは、どういう生き方なのか。
『大往生のコツ ほどよくわがままに生きる』(アスコム)を上梓した
在宅ホスピス医で僧侶の小笠原文雄さんに、
人生100年時代の幸せな「ぴんぴんころり」について教えてもらった。
☆☆かつてのイメージの「ぴんぴんころり」は難しい☆☆
「ぴんぴんころり」と聞くと、健康で、ぴんぴんと生活し、
薬を飲んだり、病気になったりすることなく、
ころりと死ぬことをイメージする人は、多いのではないだろうか。
しかし、こうした「ぴんぴんころり」は、
今ほど医療技術が発達しておらず、突然死が少なくなかったころのものだ。
「突然死が減り、日本人の平均寿命が延びたことで、
多くの人が、ゆっくりと頭も体も弱っていきます。
そして、最終的には、誰かの手を借りて生活しながら、死を迎えます。
衰えることも、病気になることも、自然の摂理で、人生の一部です」(小笠原さん・以下同)
☆人生100年時代の「ぴんぴんころり」は「幸せな最期」
人生100年ともいわれる今の時代の「ぴんぴんころり」は、
病気にならずに、亡くなることではない。
病気があっても、亡くなる直前まで、ぴんぴんと元気に自分らしく暮らし、
苦しむことなく、ころりと亡くなることが「幸せな最期」と呼ぶことができるだろう。
「90歳、100歳まで生きることが珍しくない現代では、
人間は、病気をするのが当たり前。病気を退けようとして、
『~してはならない』、『~すべきだ』と自分を縛りつけると、ストレスがたまります」
☆病気になっても自分らしい生き方はできる
病気になってしまったら、自分らしく、ぴんぴんと暮らすことも、
苦しむことなく、ころりと亡くなることもできないのではと思うかもしれないが、
「寝たきりになったら、人生はおしまい」というわけではない、と小笠原さんは言う。
緩和ケアの技術が進んでいるため、がんの末期でも痛みに苦しまず、
家族にも迷惑をかけずに、住み慣れた家で最期を迎えられるようになっている。
「健康でも病気でも希望を持って、笑って生きて笑って死ねる。
今は、そんな時代なのです」
☆☆自分らしく生きるためには「我慢をしない」☆☆
自分らしく、ぴんぴんと生きるために大切なのは、
我慢をしないことだ、と小笠原さんは話す。
年を取ると、健康のために、好きな食べ物やお酒を控える人も増えるが、
こうした我慢は行き過ぎる、と逆効果になってしまうためだ。
「日常生活で我慢することが増えると、
かえってストレスがたまり、健康を害してしまいます」
☆ストレスがたまると不調が出やすくなる
ストレスがたまると、交感神経が優位になり、血管は収縮して、血液の通り道が狭くなる。
その結果、全身の血流が悪くなり、体のあちこちに、不調が出やすくなってしまう。
さらに、ストレスによって、交感神経が興奮すると、血液も固まりやすくなるため、
特に心筋梗塞や脳梗塞など血管の中で、血が固まる病気の人は注意が必要だ。
「私は、ご高齢の方は、我慢をしないほうが、笑顔で長生きできると思うようになりました。
これまで診察してきた患者さんでも、
我慢をしないことで、元気を取り戻した方がたくさんいます」
☆無理な食事制限や運動は不要
小笠原さん自身も、正しい栄養バランスを守った食事をしているわけではなく、
食べ過ぎたら、翌日は控えるようにする程度だと言う。
栄養バランスを意識しすぎると、食べたいものや好きな物を我慢しなければならず、
ストレスの原因となるためだ。
運動に関しても、ウォーキングや筋力トレーニングなどはしていないそうだ。
「運動も、本人が好きなら続ければ効果がありますが、
あまり体を動かすのが好きではないのに、無理に運動をするとかえってストレスを増やします」
☆☆一番若い「今」を楽しむのが大切☆☆
我慢をしないために、意識しておくべきことは、
これからの人生で、「今」が一番若いということだ。
一番若い「今」、好きなものを食べて、やりたいことを思う存分やり、
毎日笑って過ごすことで、免疫細胞が活性化し、免疫力が上がっていくという。
「世間体や家族の都合よりも、自分の本心を優先させるほうが、
心も体も元気になり、結果としてみんなが『よかった』と思うことが多いのです」
☆自宅にいたいなら我慢せず在宅医療を選んでいい
病気になった場合も、自宅で過ごしたいと思うならば、
我慢せずに在宅医療を選ぶことを、小笠原さんはすすめている。
病院は、病気と闘う場所であり、医師や看護師には緊張感があるため、
患者にとって、ストレスがたまりやすい場所でもある。
「このような空間にいることに疲れたのならば、
病院から離れて、自分の家で過ごしましょう」
☆介護のために家族が我慢する必要もない
在宅医療を選ぶと、家族に迷惑がかかる、と気にする人もいるが、
一人暮らしの場合でも、同居の場合でも、
家族に迷惑をかけずに、自宅で過ごすことは可能だ。
日本には介護保険制度があり、介護ヘルパーや訪問入浴、デイサービスなど、
介護のプロに少ない負担で、身体的なケアを頼むことができるためだ。
「たとえ寝たきりになっても、介護のプロに任せれば、
身体的なケアは、ほとんど行ってくれます。
ですから、笑顔で、安心して家で過ごしてください」
自分の家族や親が、在宅医療を選んだ場合も同様で、
介護のために無理して仕事を辞めたり、何かを我慢したりする必要はない。
介護保険なども活用し、それぞれが我慢することなく、
自分らしく生きることが、人生100年時代の「ぴんぴんころり」のために大切なのだ。
◆教えてくれたのは:在宅ホスピス医、僧侶・小笠原文雄さん
おがさわら・ぶんゆう。医学博士。浄土真宗大谷派聖徳山伝法寺住職。
日本在宅ホスピス協会会長。医療法人聖徳会 小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック院長。
名古屋大学医学部卒業後、同医学部附属病院第二内科を経て小笠原内科を開院。
医師として約2500人、僧侶として約500人の死を見つめる。
著書に『大往生のコツ ほどよくわがままに生きる』(アスコム)など。https://ogasawaraclinic.or.jp/staff