私の塾では授業料を免除するケースがある。
今いる塾生の場合、親御さんが子供を私の許に通わせたいし、本人も勉強したいが経済的に無理だと言われたので、それならば授業料はいりませんから通わせてくださいということでお預かりしている。
かつて、このようなことがあった。中学1年生で入塾してきた子供の授業料が3年生の後半になって滞るようになった。やがて、高校受験に合格し、塾を巣立っていった。
結局、授業料は数か月分未納のままとなった。何か事情があったのだろう。督促はしなかった。
それから5年後、ある日彼がひょっこり訪ねてきた。高専を卒業し、無事に就職が決まったことを報告しに来てくれたのだった。これからのことなどをひとしきり話した後、帰りしなに彼は「遅くなってすみませんでした。残っていた月謝です」と封筒を差し出した。
そのことは、彼の心のどこかにずっと引っ掛かっていたのだろう。高校を卒業し、就職のため故郷を離れるのを機に清算しようと思い立った。アルバイトでもして貯めたのだろう。
そ知らぬふりを決め込めば、そのまま免れることもできた。だが、彼はそうしなかった。
全国で多くの大学卒業者が経済的困窮により奨学金を返済できずに苦しんでいるという。奨学金制度を進める日本学生支援機構の調査では、3ヶ月以上滞納している人が09年度で21万人にのぼっている。学生時代に奨学金を借りて数百万円という借金を背負ったものの、利子が膨らみ月々の返済が重くのしかかっているのだ。これに対し、同機構は取立てを強化しているという。
そもそも経済的に厳しいから奨学金を借りるのであって、その足元を見るように有利子で金を貸し付け、その後、厳しく取り立てるのであれば、金貸し業となんら変わらない。ちなみに、ウィキぺディアによると「日本国内においては一般に奨学金ではなく学生ローンと呼ばれている」とある。
政府が「教育が大事」「若い人が大事」と言うのなら、奨学金は返済義務のない給付型の奨学金制度を目指すべきだ。