□歓喜の歌/2008年公開・日本
□ストーリー
文化会館で働く飯塚主任は、似た名前のふたつのコーラスグループを聞き違え、大晦日のコンサートホールをダブルブッキングしてしまう。双方に掛け合うものの、どちらも一歩も譲らず大問題に発展。安定の上にあぐらをかき、人生テキトーにやりすごしてきた中年公務員は、合唱にかける彼女たちの情熱に右往左往するばかり。さらには夫婦の危機から溜めた飲み屋の勘定まで、日ごろのツケが一気にまわってきて・・・。
はたして飯塚主任の運命は?懸命に練習を重ねてきた「ママさん」たちの「歓喜の歌」は、大晦日の町に響きわたるのか。
□原作:立川志の輔(新作落語「歓喜の歌」)
□監督:松岡錠司
□脚本:真辺克彦 松岡錠司
□出演
小林薫、伊藤淳史、由紀さおり、浅田美代子、安田成美、田中哲司、
藤田弓子、光石研、筒井道隆、笹野高史、塩見三省、渡辺美佐子
□感想 ☆☆☆☆
小林薫さんが大好きです。あまり語らず、背中で男の哀愁を語ってみせる役柄とか、色気漂うかっこいい上司とか、かと思えば、にぎやかでおちゃらけてばかりのちゃきちゃき江戸っ子さんとか、とにかく変幻自在の演技が大好きです。どんな役を演じても品を失うことなく、ユーモアを漂わせ、どんなに駄目だなぁ、と思わせる人を演じても、どこか憎めないな、と思わせてくれる。そういうところが大好きです。
今回も、優柔不断で事なかれ主義、仕事ができない上に、自分のミスを隙あらば部下に責任転嫁しようと試みるダメダメ公務員をひょうひょうと演じられていました。これだけダメダメな公務員なのに、なぜか憎めない。愛嬌があるように感じてしまうのは、小林さんならではだと思うのです。
置かれている状況はとてもシリアス。今までの人生のツケがすべて回ってきたのか、大晦日を数日に控え、閑職に飛ばされたはずの仕事先で大ポカをやらかすし、ためていた飲み屋のツケもやくざ風の店主に追い立てられているし、妻には愛想をつかされそうになっているし。にも関わらず、悲壮感を漂わせることなくふらふらふらふらと右往左往する小林さんはとてつもなくしょうもないのに、かわいらしく思えてきます。かわいらしく思えるんだけれど、やっぱりしょうもない。その匙加減が絶妙でした。
前半、ひたすらふらふらしていた主人公もママさんコーラスのメンバたちの歌に対する熱意や大変そうに見える日常の中でも前向きに過ごしている姿勢を見て、徐々に刺激を受け始めます。ようやく責任を感じ始めて奔走する中盤。奔走はしているものの、あくまでも「無責任男なりに」の責任の感じ方で、どこか肩の力は抜けていて、一生懸命なのにユーモラス。スマートさのかけらもない奔走だからこそ、心からの応援を送りたくなります。
それにしても、ママさんコーラスの指揮者演じる安田成美さんがとてつもなくキュート!
私生活でも役柄の上でも40代だと思うのですが、年齢をまったく感じさせません。
多忙な日常に追われている中で、歌うことを楽しみにしている主婦を素直にのびのびと演じられていました。素なのかな、と思わせてくれるほど柔らかな表情で天真爛漫な女性を演じているのに、ふとした瞬間、その柔らかさの中に凛とした強さを感じさせてくれる素敵な女性でした。家族を愛し、どこかモラトリアムで夢見がちな旦那様の生き方を信じて前向きに支える彼女は、何があっても泣きごとを言わないし、どんな困難にも仲間たちと穏やかに笑いながら立ち向かいます。「強い女性」と「強がっている女性」の違いを見せつけてくれました。
そして、強いと言えば由紀さおりさん!
スーパーのパートさんや商店街のおばちゃんたちが寄り集まっている庶民派ママさんコーラスとは対照的なセレブ奥様コーラスグループのリーダー役を貫禄たっぷりに演じられていました。こういう役がとてつもなく似合います。でも、全然、嫌味はありません。貫禄あるし、毅然としているし、どこか冷たい印象も与えるけれど、同じくらいおかしみもあったかさも持ち合わせたこれまた素敵なリーダーでした。
クライマックスは、安田さん率いる庶民派コーラスグループによる「ダニーボーイ」の合唱とその中での平澤由美さんのソロ。圧倒的な歌唱力で、人間の声が持つ迫力、歌そのものが持つ大きな力を見せつけてくれます。この場面だけでも4~5回は繰り返し楽しんだ気がします。歌声を聴いているだけで、気持ちが奮い立ちました。この場面はぜひとも映画館で見たかったな。
それにしても、この映画には「悪人」がまったく出てきません。困った人はたくさん出るけれど、みんな「困った人」というよりは「人間味溢れる人」。歌が好き、という気持ちを支えに煩雑な毎日をがんばっている人たちの姿を見ていると、胸が熱くなりました。好きなものがある人生は豊かでしなやかで強い。そう思わせてくれる映画でした。大晦日を舞台に繰り広げられる人情味あふれるあたたかいお話で、見終わった後、身体の中からぬくもりを与えられた気がします。
原作は立川志の輔さんの創作落語なんだとか。道理で立川さんの登場が唐突だと思ったよ!と納得しました。落語バージョンも聞いてみたいなぁ。
□ストーリー
文化会館で働く飯塚主任は、似た名前のふたつのコーラスグループを聞き違え、大晦日のコンサートホールをダブルブッキングしてしまう。双方に掛け合うものの、どちらも一歩も譲らず大問題に発展。安定の上にあぐらをかき、人生テキトーにやりすごしてきた中年公務員は、合唱にかける彼女たちの情熱に右往左往するばかり。さらには夫婦の危機から溜めた飲み屋の勘定まで、日ごろのツケが一気にまわってきて・・・。
はたして飯塚主任の運命は?懸命に練習を重ねてきた「ママさん」たちの「歓喜の歌」は、大晦日の町に響きわたるのか。
□原作:立川志の輔(新作落語「歓喜の歌」)
□監督:松岡錠司
□脚本:真辺克彦 松岡錠司
□出演
小林薫、伊藤淳史、由紀さおり、浅田美代子、安田成美、田中哲司、
藤田弓子、光石研、筒井道隆、笹野高史、塩見三省、渡辺美佐子
□感想 ☆☆☆☆
小林薫さんが大好きです。あまり語らず、背中で男の哀愁を語ってみせる役柄とか、色気漂うかっこいい上司とか、かと思えば、にぎやかでおちゃらけてばかりのちゃきちゃき江戸っ子さんとか、とにかく変幻自在の演技が大好きです。どんな役を演じても品を失うことなく、ユーモアを漂わせ、どんなに駄目だなぁ、と思わせる人を演じても、どこか憎めないな、と思わせてくれる。そういうところが大好きです。
今回も、優柔不断で事なかれ主義、仕事ができない上に、自分のミスを隙あらば部下に責任転嫁しようと試みるダメダメ公務員をひょうひょうと演じられていました。これだけダメダメな公務員なのに、なぜか憎めない。愛嬌があるように感じてしまうのは、小林さんならではだと思うのです。
置かれている状況はとてもシリアス。今までの人生のツケがすべて回ってきたのか、大晦日を数日に控え、閑職に飛ばされたはずの仕事先で大ポカをやらかすし、ためていた飲み屋のツケもやくざ風の店主に追い立てられているし、妻には愛想をつかされそうになっているし。にも関わらず、悲壮感を漂わせることなくふらふらふらふらと右往左往する小林さんはとてつもなくしょうもないのに、かわいらしく思えてきます。かわいらしく思えるんだけれど、やっぱりしょうもない。その匙加減が絶妙でした。
前半、ひたすらふらふらしていた主人公もママさんコーラスのメンバたちの歌に対する熱意や大変そうに見える日常の中でも前向きに過ごしている姿勢を見て、徐々に刺激を受け始めます。ようやく責任を感じ始めて奔走する中盤。奔走はしているものの、あくまでも「無責任男なりに」の責任の感じ方で、どこか肩の力は抜けていて、一生懸命なのにユーモラス。スマートさのかけらもない奔走だからこそ、心からの応援を送りたくなります。
それにしても、ママさんコーラスの指揮者演じる安田成美さんがとてつもなくキュート!
私生活でも役柄の上でも40代だと思うのですが、年齢をまったく感じさせません。
多忙な日常に追われている中で、歌うことを楽しみにしている主婦を素直にのびのびと演じられていました。素なのかな、と思わせてくれるほど柔らかな表情で天真爛漫な女性を演じているのに、ふとした瞬間、その柔らかさの中に凛とした強さを感じさせてくれる素敵な女性でした。家族を愛し、どこかモラトリアムで夢見がちな旦那様の生き方を信じて前向きに支える彼女は、何があっても泣きごとを言わないし、どんな困難にも仲間たちと穏やかに笑いながら立ち向かいます。「強い女性」と「強がっている女性」の違いを見せつけてくれました。
そして、強いと言えば由紀さおりさん!
スーパーのパートさんや商店街のおばちゃんたちが寄り集まっている庶民派ママさんコーラスとは対照的なセレブ奥様コーラスグループのリーダー役を貫禄たっぷりに演じられていました。こういう役がとてつもなく似合います。でも、全然、嫌味はありません。貫禄あるし、毅然としているし、どこか冷たい印象も与えるけれど、同じくらいおかしみもあったかさも持ち合わせたこれまた素敵なリーダーでした。
クライマックスは、安田さん率いる庶民派コーラスグループによる「ダニーボーイ」の合唱とその中での平澤由美さんのソロ。圧倒的な歌唱力で、人間の声が持つ迫力、歌そのものが持つ大きな力を見せつけてくれます。この場面だけでも4~5回は繰り返し楽しんだ気がします。歌声を聴いているだけで、気持ちが奮い立ちました。この場面はぜひとも映画館で見たかったな。
それにしても、この映画には「悪人」がまったく出てきません。困った人はたくさん出るけれど、みんな「困った人」というよりは「人間味溢れる人」。歌が好き、という気持ちを支えに煩雑な毎日をがんばっている人たちの姿を見ていると、胸が熱くなりました。好きなものがある人生は豊かでしなやかで強い。そう思わせてくれる映画でした。大晦日を舞台に繰り広げられる人情味あふれるあたたかいお話で、見終わった後、身体の中からぬくもりを与えられた気がします。
原作は立川志の輔さんの創作落語なんだとか。道理で立川さんの登場が唐突だと思ったよ!と納得しました。落語バージョンも聞いてみたいなぁ。