◎福住正兄『二宮翁夜話』初版の刊行日に関する疑問
昨日の続きである。
福住正兄の『二宮翁夜話』(静岡報徳社、一八八四~一八八七)は、最初、全五巻=五分冊の形で出版された。すべて「木板和装」である。
二宮尊徳研究の第一人者として知られた佐々井信太郎は、岩波文庫版『二宮翁夜話』(一九三三)の「解題」において、各巻(各分冊)の「日付」を、以下のように記していた。
巻一 明治十七年十一月一日
巻二 同 十八年十一月十六日
巻三 同 十九年正月二十一日
巻四 同二十年三月三十一日
巻五 同 同年六月二十一日
今日、これらは、国会図書館の「近代デジタルライブラリー」を利用すれば、全国どこからでも閲覧できる。
先日、念のために、その近代デジタルライブラリーによって、静岡報徳社版『二宮翁夜話』各巻の奥付を確認したところ、次のようになっていた。
巻之一 明治十七年十一月一日 出版版権御願
同年 十一月十日 版権免許
巻之二 明治十八年十一月十六日 出版免許
同年 十一月二十日 出版
巻之三 明治十九年五月廿一日 版権免許
同年 六月二十日 出版御届
巻之四 明治二十年三月三十一日 版権免許
同年 四月二十日 出版
巻之五 明治二十年六月廿一日 版権免許
同年 七月二十日 出版
岩波文庫版には、「巻三 同 十九年正月二十一日」とあったが、この「正月」は、「五月」の誤植と思われる(あるいは、佐々井信太郎の誤記か)。
また、ここで佐々井信太郎が記した「日付」は、必ずしも「刊行日」ではなかったこともわかる。当時の出版許可制度の実態について知るものではないが、巻之一〈マキノイチ〉に関していえば、その版権免許がおりたのは「明治十七年十一月十日」であって、実際の出版は、そのあとだったであろうことは、ほぼ間違いない。他の巻〈マキ〉が、「版権免許」から「出版」まで、約一か月を要しているところから見て、巻之一の刊行は、同年の一二月のことだったのではないだろうか。博雅のご教示を待ちたい。