◎「アカギ叢書発刊の辞」と「読書子に寄す」を比較する
昨日のコラムで、「アカギ叢書発刊の辞」を紹介した。
これをご覧になった読者は、岩波茂雄の「読書子に寄す」という文章とよく似ているという印象をお持ちになったのではないだろうか。
両者を比較してみよう。
叢書名 アカギ叢書 岩波文庫
タイトル アカギ叢書発刊の辞 読書子に寄す―岩波文庫発刊に際して―
日 付 大正三年(一九一四)三月 昭和二年(一九二七)七月
署 名 赤城正蔵 岩波茂雄(当初は「岩波書店」)
位 置 巻頭 巻末
スペース 二ページ 一ページ(当初は見開き二ページ)
批判の対象 高価、尨大、難渋な書籍 大量生産予約出版
キャッチ 袖珍百頁 簡易なる形式に於て逐次刊行
一見すると対照的なようだが、似ている点も見出せる。何よりも、「発刊の辞」を載せていること自体に共通性があると言うこともできる。また、両者を読み比べると、出版界の現状を批判し、斬新な試みによって、そうした現状を打破しようとする気迫と熱意を感じさせる点では、瓜二つである。
結論的に言えば、岩波茂雄の「読書子に寄す」は、赤城正蔵の「アカギ叢書発刊の辞」を意識しながら書かれた文章であり、それにインスパイアされたことによって成立した文章だということが言えるだろう。
なお、「読書子に寄す」の中に、「既に十数年以前より志して来た計画」という言葉がある。これは深読みかもしれないが、岩波茂雄はアカギ叢書の創刊を知って、先を越されたと思い、このときから、いずれ「岩波文庫」を創刊したいと思い続けてきたのではないだろうか。
今日の名言 2013・10・17
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岩波茂雄が岩波文庫の趣旨について述べた言葉。岩波文庫「読書子に寄す―岩波文庫発刊に際して―」(1927)に出てくる。上記コラム参照。