◎『ことわざの話』抜刷本の正誤表と柳田國男のモラル
昨日の続きである。
柳田國男の『ことわざの話』別刷本(アルス、一九三〇)の巻頭にある正誤表は、以下の通りである。
正誤表 ● 〇
176頁 末行 小きな 小さな
179頁 末行 からつたら かららつたら
180頁 3行 淵の塩 淵に塩
181頁 末行 いさめたり いぢめたり
183頁 9行 紺屋の 紺屋に
184頁 3行 鳰の 鳩の
同 5行 夜路の早い 夜道に早い
190頁 9行 坊主の 坊主に
同 10行 按摩の 按摩に
193頁 4行 そんかこと そんなこと
同 11行 兎をくひつく 兎もくいつく
194頁 2行 そこらでは ところでは
同 4行 なりました。 なりましたが
196頁 9行 さかな うを
199頁 7行 今では 今でも
202頁 6行 「見たやうな」と 「見たやうな」を
204頁10行 ものが ものを
214頁 9行 さかひ いさかひ
226頁11行 いつごほり いとごほり
229頁 初行 相手でばかり 相手ばかり
239頁10行 直つて人 直ってん
240頁 6行 をりをり (除く)
242頁 初行 小僧が 小僧で
243頁10行 古風に 古風な
245頁 4行 してゐる してある
同 7行 言語大辞典 諺語大辞典
248頁 末行 聞えたので 聞えたからで
今、この正誤表についての詳しい分析はしないが、およそ次のようなことがいえる。
・別刷本の正誤訂正の数は、中学生全集所収「ことわざの話」における正誤訂正の数よりずっと多い。
・別刷本の正誤訂正のうち、中学生全集で直っているのは三つのみ。
・別刷本の正誤訂正が、そのまま中学生全集の正誤訂正に引き継がれているものが七つ。
・別刷本で正誤訂正の指示があり、中学生全集ではその指示がないものも多い(重大な誤りにもかかわらず、訂正の指示さえないものがある)。
・別刷本の正誤訂正の指示と、中学生全集の正誤訂正の指示が異なるものがある。
要するに、柳田國男は、中学生全集『なぞとことわざ』を編む際に、『ことわざの話』別刷本の正誤表のことを忘失しており、しかも、中学生全集『なぞとことわざ』が刊行された後も、別刷本の正誤表を参照していなかったということである。
これは、「神経を疑う」どころの問題ではない。物書きとしての誠意やモラルが問われる問題だと思う。まずは、出版社に対して、そして何よりも、「児童」と「中学生」に対して。