◎自筆句集『廣芝五十句』(1948)より
数日前、某古書店の百円均一の台から、『廣芝五十句』という本を拾い上げた。万年筆の細字で書かれた自筆句集である。冒頭に、「廣芝五十句/昭和二十三年四月編」とあり、以降、各ページに一句ずつ、自選の句が紹介されている。表題には「五十句」とあったが、全部で四十八句しか収められておらず、「跋」などもないので、未完成本かもしれない。
その第二九句は、次のようなものであった。
空梅雨や巷に絶へし馬犬など
昭和二十一年六月、生きて還つた祖国はたゞたゞ焦
土と化してわれわれ引揚者の想像を絶するものがあ
つた。未だ定まつた職もなかつたがとに角起ち上
らなければならないと考へてゐた。
空梅雨は〈カラツユ〉、巷は〈チマタ〉と読む。馬犬は、〈ウマイヌ〉と読むのだろうが、そうすると字余りになってしまう。あるいは〈バケン〉か。
昨日のクイズの解答(その言葉の出典と、百家説林におけるページを示す)
1 文鎮 けいさん 後松日記(続編中824)
2 家司 けいし 後松日記(続編中831)
3 鷁首 げきしゅ 家屋雑考(正編下247)
4 懸想文 けそうぶみ 閑田耕筆(続編下一95)
5 蚰蜒 げじ 世事百談(正編下一95)
6 下手人 げしにん 南留別志(正編上118)
7 脇息 きょうそく(ケフソク) 難波江(続編下一672)
8 仮名 けみょう 南留別志(正編上161)
9 慳貪 けんどん 還塊紙料(続編上715)ほか
10 犬皮 けんぴ 善庵随筆(正編上664)
7の脇息は、「キ」のところで出題すべきでした。9の慳貪は、今日では、もっぱら、「つっけんどん」(突慳貪)という形で使われます。