◎太郎さんは ぼくの 首わを とって
昨日の続きである。「太郎花子国語の本 編修方針内容見本」(日本書籍株式会社)から、「2 おまわりさんとポチ」という文章を紹介している。本日は、その三回目。
おとうさんの財布が戻って、一件落着と思いきや、そのあと、「ぼく」(ポチ)は、命を失いなねない危機に直面する。何とも意外な展開である。ちなみに、おとうさんが財布を落としたのは、「きのう」の事件で、ポチが生命の危機に直面したのは、「きょう」の事件ということになっている。
改行は原文のまま。誤植と思われる部分があるが、訂正していない。
五、ごほうび
うちへ かえると、花子さんが、
「あら、ポチが、さいふを もって かえったわ。」
といいました。
おとうさんが、出て きました。
「おお、ポチか。おりこう、おりこう。
おかあさん、ポチに ごほうびを やって おくれ。」
おかあさんは、おいもを くれました。
ぼくは、おとうさんに さいふを あげると、そ
の おいもを たべました。
おとうさんも、おかあさんも、
「おりこう、おりこう。」
といって、ぼくを なでで くれます。
ぼくは、いい 氣もちで そこに じっと して
いました。
太郎さんが かえって きました。
「ポチは、さいふを もって かえりましたか。」
「ああ、ひろって かえってきたよ。今、ごほうびを や
ったところだ。」
と、おとうさんが いいます。
「ポチが、ひろったんじゃ ないんですよ。ひろった
のは、ちよ子さんです。ちよ子さんが ひろって、
おまわりさんへ とどけて いたんですよ。」
と いって、太郎さんは、さっき おまわりさんの
ところで あった ことを はなしました。
「そうか。じゃあ、ポチが ひろったんじゃ ないの
か。」
「ひろったのは、ポチじゃ ありません。でもね、さ
いふの おちて いた ところは、はしの そばの
草の 中で、ポチは ちゃんと そこを かぎわけ
ましたよ。」
ちよ子だんも、そこで ひろったと おまわりさん
に いった そうです。」
おとうさんは、
「やっぱり ポチは りこうだ。」
と いいました。
おとうさんは、おまわりさんと ちよ子さんに、お
れいに 行くと いって 出かけました。
六、首わ なしで
ところで、きょう ぼくは、大しくじりを しまし
た。もう 少しで、いのちが ない ところでした。
あさ おきると、太郎さんの まりの あいてを
しました。
それが すむと、太郎さんは ぼくの 首わを と
って、首から からだを ゴシゴシと かいて くれ
ました。
いい 氣もちでした。ぼくは、目を 小さくして、
じっと すわって いました。
太郎さんは、首わを かけようと しました。どう
も うまく いかない ようです。
「こわれたな。なおして くるからね、ポチ。」
といって、太郎さんは あっちへ 行きました。
ぼくは、立ちあがって、からだを ブルブルと ふ
るいました。
ほんとうに いい 氣もちでした。
よし これから 出てみよう。
と おもって、ぼくは そっと 出かけました。
ぼくは、どこと いう こと なしに 走りました。道
だろうと、畑だろうと、たんぼだろうと。
首わの ないのが、それほど うれしかったのです。【以下、次回】