◎ぼくは、においが よく わかります(ポチ)
先日、神田神保町の古本屋で、「太郎花子国語の本 編修方針内容見本」(日本書籍株式会社)という小冊子を入手した。本文三五ページで、粗末な紙が使われている。いつ発行されたものかは不明。
「太郎花子国語の本」というのは、戦後初期に作られた小学生用の「文部省検定教科書」で、一九五一年度(昭和二六度)には、すでに使用されていたようだが、いつから使用され立かについては、未確認。前記冊子は、その「内容見本」であるからして、一九五〇年(昭和二五)、あるいはそれ以前に配布されたものと思われる。
目次は、以下の通り。
編修一般方針
一、二、三学年総目次
内容の一部
一年中/二年上/三年上
本日は、「内容の一部」から、二年上『ひばりのうた』の「2 おまわりさんとポチ」のところを紹介してみよう。この文章は、太郎さんの愛犬「ポチ」の視点から綴られている。なんという斬新さであろうか。改行は原文のまま。誤植と思われる部分があるが、訂正していない。
二年上
ひばりの うた(内容の一部).
2 おまわりさんとポチ
一、おとうさんの さいふ
ぼくは、ポチです。太郎さんのポチです。
まい朝、ぼくは、太郎さんの まりなげの おあい
てをします。
太郎さんが がっこうから かえると、いっしょに
あそびに出たり、おつかいに行つたり します。
きのうの ごごでした。これから 太郎さんと 出
かけようとしていると、太郎さんの おとうさんが、
かえって きました。
おとうさんは、おうちへ はいると、ポケットを
さがしながら、
「あ、さいふ がない。みちで おとしたかな」
と いいました。そして
「なんだ。ポケットが やぶれて いる。ここから
おちたんだね。太郎。」
と いって、太郎さんに ポケットを 見せました。
「ほんとう。たくさん、おかねが はいって いたの。」
と、太郎さんが きくと、
「なに、百圓さつが 一まいと、あとは少しばかり
だ。それよりも、さいふがおしい。きのう、この
めいし入れと いっしょに かったんだ。」
と いって、おとうさんは めいし入れを 見せました。
「これと おなじ かわで できた さいふだ。」
太郎さんは めいし入れを もって、
「ポチ、こい、こい。」
と いいながら、ぼくのはなの さきに 出しまし
た。
ぼくは、においが よく わかります。
めいし入れを かいでみると、なんだか かわの に
おいがします。
かわの においと、おとうさん のにおいと、いつ
しょに なって、います。
太郎さんは、
「わかったね、さあ、さがしに 行こう。」
と いって、出かけました。おとうさんは、
「いま、やくばから かえったんだ。やくばまで 行
って みておくれ。」
と いいました。
ぼくは、先に たって 走りました。
二、草の 中
道の 上を、かぎながら、あるきました。
おとうさんの においが する ようです。
太郎さんは、ぼくの あとから、さがしながら や
って きます。
はしの ところまで きました。
はしを わたると、きゅうに においが なくなり
ました。ぼくは、そのへんを、よくよく かいで
みました。
どうも、左の はたけの 方が くさい ようです。
「おとうさんは、はたけを とおったんだな。」
とおもって、ぼくは、そっちの 方へ 行きました。
少し 行くと、道の そばの 草の 中に、におい
が します。
ぼくは、クンクン かぎながら、
「ここです。ワンワン。」
と、いいました。
太郎さんも、ぼくも、そのへんを いっしょうけん
めいに さがしました。
けれども、さいふは見つかりません。
「ポチ、ないよ。やくばまで 行こう。」
と いって、太郎さんは 先へ 行きました。
ぼくは、まだ においを かぎながら、あとから
行きました。【以下、次回】