礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

私は初めて、こいつがB29であることに気づいた(木村准尉)

2020-08-22 03:07:49 | コラムと名言

◎私は初めて、こいつがB29であることに気づいた(木村准尉)

『航空少年』一九四四年(昭和一九)七月号から、「B29撃墜の勇士を訪ふ」という記事を紹介している。本日は、その三回目。

  出 撃
 飛行場は闇の中に嵐の前の静かな時がすぎた。この静けさを破つて、部隊長殿の厳として力強い「出撃」の命令が下された。
 調子のよいプロペラの轟音が、一時に飛行場を圧した。一機、二機、三機と漆黒の闇をついて敵機をもとめ、爆音高らかに離陸する僚機のあとを追つて、私〔木村定光准尉〕はぐつと操縦桿を握りしめた。
  激 闘
 漆黒の大地を蹴つて星空に上昇する僚機の尾翼燈が流星のやうに敵機をもとめて進む。
 その時である。さつと放たれた数条の照空燈の光芒は、美事に敵の巨体を捕へてゐるではないか。
 一番機、二番機はもう敵の巨体に肉迫して必中の猛射をあびせてゐる。地上制空部隊の十字砲火の弾幕の中に、敵味方入り乱れての曳光弾が交錯ずる中で、対空照射に捕へられ逃れようとしてのたうちまはつてゐる敵の編隊長機らしく思はれる馬鹿でつかい奴を私は発見した。
〝こいつ逃してなるものか〟とつさに私は操縦桿をぐつと倒して、下から下からと突込みながら肉迫して行つた。小癪にも敵機は防禦砲火の火ぶたをきつて盛にうちまくつてきたが、何の!と思ひきつて二三十米位まで肉迫した。私の視界が、照空燈に照らされた敵の巨体におほはれて、一面に真白になつた。敵が体当りを恐れて急に上昇したのである。その瞬間すかさず敵の胴腹〈ドウバラ〉目がけで必中弾をたたきつけた。確に手ごたへがあつた。馬鹿でつかい奴が、がくりとのたうつたと思ふと、ふらふらと機首を下げてきりもみの状態になつて落ちていく。その時ちらりと目に入つた一枚翅〈イチマイバネ〉の尾翼、私ははじめてこいつがB29であることに気づいた。
 米空軍の虎の子、超空の要塞!畜生!こいつに皇土を爆撃させてなるものか。私はほつとしてぐつと機首を転ずると、まさに爆撃を行はうとして旋回を始めた他の一機が目にとまつた。
〝何を小癪な!〟とまつしぐらにこれに肉迫した。今は敵機の猛射も、味方高射砲の作裂も恐しいといふ感じは全然ない。ただ、
〝こいつの爆弾で神州をけがさせてなるものか〟
といふ一念のみである。
 弾丸の中をぐぐつて、ぐつと喰ひ下り、後尾へまはつて、ダダツと連射をあびせた。これを知つた敵は巨体に似合はぬすばらしい操縦性能を発揮して、ぐつと急上昇をはじめた。
 何をつ!
と私は夢中で発射ボタンを押した。
 命中、まさに天祐である。敵機の翼の中央から、もくもくと白煙が噴きだし初めた。敵は私の攻撃をさけようとして、必死の旋回上昇を続ける。〝糞ツ〟どこまでも喰ひ下つて撃ちまくつた。
 この時、惜しいかな私の機は弾丸が尽きさうになつた。しかしこのまま逃すのは残念だ!もはや一刻の猶予もない。最後の止めは体当りでと決心して、猛然と飛びかかつてうちまくつた最後の一撃が効を奏して、つひにこれを討ちとることができた。
 それから私は弾丸補給のために大急ぎで基地に帰つた。【以下、次回】

 出撃前に、木村准尉は、敵の編隊が、ボーイングB29およびコンソリデーテツドB24からなることを知らされていたはずである。前者は尾翼が一枚、後者は尾翼が二枚。きりもみ状態になって墜落してゆく敵機の尾翼を見て、木村准尉は、この敵機がB29であったことに気づいたのであろう。

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