◎昼は食パンと牛乳、夜は菓子パンと牛乳
今月21日の東京新聞で、「見上げてごらん」というエッセイを読んだ。26日の当ブログでは、それを読んだ感想などを書いた。
このエッセイを読んで、映画『見上げてごらん夜の星を』(松竹、1963)が観たくなり、アマゾン経由で中古のDVDを購入した。鑑賞してみると、その時代の若者たちをリアルに描いている名作だった。坂本九さんや中村嘉津雄さん(現在の中村嘉葎雄さん)の演技もよかった。
ザッと観て気づいた点を、箇条で挙げてみよう。
・映画の冒頭は、試合中の東京スタジアムを上空から撮影している場面。「光の球場」にふさわしく、煌々とした明りに照らされている。ただし、観客はまばらである。
・カメラは続いて、球場に隣接している学校の校庭を映し出す。校庭では、定時制高校に通う生徒たちが、ソフトボールに興じている。この校庭には、独自の照明設備はない。球場のライトが、隣の学校の校庭まで明るくしているのである。
・撮影に使った学校は、都立荒川工業高校(現在の都立荒川工科高校)であろう。映画の中では、この学校は、「荒川高校」ということになっている。
・主人公のタヘイ(坂本九さん)が、都電の「荒川区役所前」で降り、走って高校に向かう場面がある。この都電は、今でも健在の都営荒川線である。
・定時制の生徒たちが、教室で「給食」を受け取る場面がある。紙袋に入った菓子パン二個とビンの牛乳一本である。
・タヘイは、日中は、「富岳工業」という町工場で働いている。そこで、昼食を受け取る場面があるが、ビニール袋に入った食パン四枚とビンの牛乳一本である。
・タヘイと同じ工場で働いているツトム(中村嘉津雄さん)という若者がいる。ツトムの場合、工場での昼食は、持参した弁当である。なお、ツトムは、家庭の事情で、定時制には通っていない。
・都営荒川線の「三ノ輪橋(みのわばし)」で、ツトムが電車に駆けこんでくる場面がある。駅前に「つくだ煮」という看板が見える。鰻のつくだ煮で知られる安井屋である。安井屋は、昭和二年(1927)創業という。今日なお盛業中である。
・当時の都電には、まだ車掌がいて、「この電車は、王子経由赤羽行き」と発声している。この当時は、「王子駅前」から「赤羽」に至る都電赤羽線(27系統)があったのである。
・ツトムが乗った電車の車掌は、たまたま、ツトムの叔父さんだった。「おう、ツトムじゃないか」と話しかけている。この車掌を演じているのは、野々村潔さん(岩下志麻さんのお父さん)。