礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

クワイはヴェトナム語でkhvaiという(坪井九馬三)

2024-09-26 02:31:33 | コラムと名言
◎クワイはヴェトナム語でkhvaiという(坪井九馬三)

 本日も、山中襄太著『国語語源辞典』(校倉書房、1976)の紹介。本日は、「くわい」という項目を紹介したい。

くわい【慈姑,茨菰】 大言海くわゐ――噛破集(クヒワレヰ)ノ義ニテ,葉ノ形ニ云フニモアルカ。[考]広辞苑は,中国原産としているが,向坂道治〈サキサカ・ミチジ〉氏の「植物渡来考」(p.67)によれば,クワイ,ラッキョウ,コンニャク,ショウガなどは,薬草として渡来栽培され,中国原産ではなくて,インド,ペルシャからの再渡来植物であろうという。こういう渡来関係が,語源を考える手がかりになる。坪井九馬三氏によれば,ヴェトナム語ではクワイをkhvaiといい,モン語ではyam(山芋) を kadap kwai, kduip kwaai などという(「我が国民国語の曙」P.42)。この khvai, kwaiなどは,日本語そっくりである。中国で慈姑,茨菰,藉姑,河鳧茈などというが,これらは音訳語らしく,文字通りの意味ではなさそうである。本草綱目に「慈姑,一根歳生十二子,如慈姑之乳諸子,故以名之」と説明しているが,本草綱目の著者の李時珍は,言語学者でも語源学者でもないから,その語源脱明はほとんど信ぜられぬ。ということは,実際にその語源説明を多く読んでみれば,維でもその感を抱くにちがいないほどだからである。字義にとらわれた俗解がほとんどである。河鳧茈という名については,李時珍も説明していないようだが,これこそは上記のkhvai, kwaiなどの音訳らしい。この字はカフシと読めるが,この茈の字は芘の誤りらしい。河鳧茈ならばkwaiの音訳とみられる。日本語クワイも,このkwaiであろう。噛破集(クヒワレヰ)などと,不自然な無理な苦しい解釈をする必要はない。とかく,語源を日本語の枠内だけで説こうとすると,こんなコジツケになりやすい。しかしクワイの葉がクイワレ(噛破)て,三角にとがっているのは持徴的で,英語でarrow-head (矢の頭,矢尻,鏃,クワイ)というのももっともである。

 坪井九馬三(つぼい・くめぞう、1859~1936)は、明治・大正・昭和の歴史学者、東京帝国大学文科大学長。今回、その著書『我が国民国語の曙』(京文社、1927)を少し読んでみたが、復刻に値する名著だと思った。

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