◎富岡福寿郎著『五・一五と血盟団』(1933)
昨日のブログでは、筒井清忠氏の新刊『戦前日本のポピュリズム』(中公新書、二〇一八年一月)を紹介した。
同書の特徴のひとつに、「参考文献」欄が充実しているということがある。上下二段で、一〇ページ分もある。これは、「新書」としては、あまり例のないことだと思う。本書の第7章「五・一五事件裁判と社会の分極化」、および、この参考文献欄に目を通し、富岡福寿郎著『五・一五と血盟団』(弘文社、一九三三)という本を読む必要を感じた。
さっそく、国会図書館まで出かけて閲覧してきた。本文五六四ページの大著で、期待した通り、史料的な価値の高い本であった。著者・富岡福寿郎の住所は、「茨城県水戸市北三ノ丸一二六/茨城タイムス社」となっている。出版社は、「水戸市南三ノ丸」にあった弘文社(当時、大阪市東区にあった湯川弘文社とは別)。一九三三年(昭和八)一二月四日発行、定価一円八〇銭。
意外だったのは、風見章〈カザミ・アキラ〉が「序」を寄せていたことである。風見章は、第一次近衛文麿内閣の書記官長(一九三七~一九三九)として知られるが、当時は、「国民同盟」所属の衆議院議員であった。おそらく、茨城県人(豊田郡水海道町出身)ということで、「序」を依頼されたのであろう。ちなみに、血盟団事件で暗殺を実行した小沼正〈オヌマ・ショウ〉および菱沼五郎は、茨城県人である。また、五・一五事件に民間人として関与した愛郷塾関係者、血盟団残党は、すべて茨城県人であった。
本日は、その風見章の「序」を紹介してみたい。
序
平野國臣〈クニオミ〉の歌に『君が代の安けかりせばかねてより身は花守となりけんものを』といふのがある。この歌のこゝろ、それこそは、この書の最初から最後まで一貫して、流れてゐると思ふ。首尾一貫して流るゝ心、まさに、こゝにあるを知らずしては、この書に盛れるものゝ真髄は、味得できまい。私は、たゞ此の一事をしるして、この書の世に出るに、はなむけする。
昭和八年十一月下旬 風見 章
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