アフガン・イラク・北朝鮮と日本

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「ハケンの品格」が現実にどこまで切り込めるか

2007年01月12日 00時21分52秒 | 映画・文化批評
 新しい年になってテレビ・ドラマの新番組が幾つか登場していますが、そのうちの「ハケンの品格」というドラマを、題名に釣られて見ました。「派遣ワーカーの事を取り上げているんだな、ブログのネタに一丁見てやるか」という感じで、「コーチ」や「ショムニ」を見るような軽いノリで。実を言うと、私はこの番組の内容については余り期待していませんでした。第一、中身のないウヨク本をもじったドラマのタイトルからして気に入らなかったし。

 それが見てみると、世相批判が、私の想像していた以上にそこかしこに散りばめられていたので、少しびっくりしました。まず出だしの部分で、1986年の派遣法施行と96年・99年の法「改正」を経て、日本の労働人口の多くが正社員から派遣・請負などのアウトソーシング・ワーカーにシフトしていった事、その裏にはリストラを大規模に進める企業の経営戦略がある事、アウトソーシング・ワーカーの給料は安く身分も不安定で、企業にとっては好きな時に好きなだけ使えていつでも使い捨て出来るモノでしかない事などが、ちゃんと解説されていました。

 ドラマのあらすじは、大手食品メーカーのオフィスを舞台に、派遣OLとそこの正社員や派遣会社の上司などが登場して、色々ドタバタを繰り広げるというもの。その第一話として、二人の派遣OLが登場する所から始まりました。

 一人は、加藤あい扮する新米ダメ派遣。面接で見栄を張ってどうにか採用されたものの配属初日からスキルの無さを露呈し、期日までに仕事を終える事が出来ずに会社のデータを家に持ち帰って残業して寝坊して、翌朝あわててタクシーで出勤した時にその会社データの入ったCDを車内に置き忘れてしまうという、そういうキャラ。
 もう一人は、篠原涼子扮する「派遣のカリスマ」と呼ばれるスーパー・キャリア・ウーマン。その大手食品メーカー営業部長から直々のお声がかりで、プロ野球選手の年俸交渉さながらに、一体どちらが面接されているのか分らないような面接を受け、配属されてからも正社員をあごでこき使い、どんなに忙しくても12時になれば昼休みに入り17時きっかりに退社する、そういうキャラ。
 この二人が新設のマーケティング課に配属され、正社員の新米主任(何と演ずるのは小泉孝太郎!)やその同僚のやり手主任、窓際族の嘱託社員たちと一緒に、ドタバタを繰り広げるという展開。第一話は、その新米ダメ派遣が無くしたCDをみんなで何とか取り戻すまで。

 第一話を見た限りでは「まずまず」といった所ではないでしょうか。少し気になった細かい点については後述しますが、そんな事など考えずに単純にエンターテイメント・ドラマとして楽しむ段には、それなりに面白いし日頃の溜飲も下げられる、そういう話の展開でした。
 新米派遣がCDを車内で紛失したタクシーを廃車処分場で見つけた時も、くだんのカリスマ派遣がいきなり重機に乗ってさっそうと登場し、そのタクシーを廃車の山から見事引っ張り出す所も、「ごくせん」で見せた仲間由紀恵扮するヤンクミの登場の仕方などと同じノリで、あらすじの荒唐無稽ささえ気にしなければ、見ている方もそれなりにスカッと出来る。
 ただ欲を言えば、このカリスマ派遣のキャラがちょっとキツ過ぎて、余り好感が持てなかった。これが篠原涼子でなく天海祐希や室井滋クラスなら程好いキツさになったのではと、まあこれは私の個人的意見ですが。

 ただこれを単なるエンターテイメントではなく一つの社会派ドラマとして見ると、色々気にかかる点が見えてきます。

 まず、松方弘樹扮する食品メーカー営業部長。第一話の中では実はこいつが一番のワルではないかと。「ダメ社員の面倒を見るつもりで飲み会にも少し付き合ってくれないか、時給をはずむから」とカリスマ派遣に頭を下げ、その裏では「派遣を使うのは人件費削減の為、所詮3ヶ月の短期契約だ」と悪びれてみせる。部長のそういう一面を垣間見せられると、この時給3千円(何せエンタメ・ドラマですからw)のカリスマ派遣の「信じられるのは自分のキャリアと高時給だけ」というツッパリも急に哀れに見えてくる。そしてそのツッパリの裏には、バブル崩壊で企業破綻の末リストラされた元金融キャリア・ウーマンという過去も顔を覗かせる。

 片や、一癖も二癖も在る派遣と対峙する正社員の方も、派遣と同様に色々で。中にはアンチ派遣の態度を露骨に取る社員もいて、例の新米を虐めたりカリスマと衝突したりするのですが、その社員の態度も、入社時から何くれと無く面倒を見てくれ一緒に仕事をしてきた先輩社員が次々とリストラされてドライな派遣に置き換えられてきたのをつぶさに見てきた末の成れの果てで。それでともすれば社員と派遣の間で、「雑用や嫌な事は派遣にばかり押付けて社員は遊び呆けている」「派遣はお客様気分で責任感やチームワークが全然無い」と互いに罵りあう。これは別にドラマだけの世界ではなく、実際の派遣関連の掲示板の書き込みにも散見される現象なのですが、左派の私から見ればこれこそ格好の分断・分割統治の最たるものなのですが。

 私に言わせると、「派遣(あるいは請負・契約社員・等々)vs正社員」という捉え方自体がある種ナンセンスなのです。経済グローバリゼーションに伴う雇用の多様化・自由化の進行の下で、アウトソーシング・ワーカーも正社員も内部の階層化が進んでいるのが現実です。
 まずアウトソーシング・ワーカーの方から言うと、「派遣」は、身分は不安定だが未だ派遣法で守られています。それに対して(正規の)「請負」は、法律の縛りこそ無い(法的には派遣より更に弱い)ものの、クライアント企業から完全に独立して一分野の仕事を丸ごと任されており、「根無し草の派遣とは違う」という自負も持っていたりする。巷で問題になった「偽装請負」は、その両方の悪い部分だけを寄せ集めたもの。それよりもっと最悪なのが、軽急便や赤帽などの個人請負業やコンビニなどのフランチャイズ。実際には被雇用者でしかないものも少なくないのに、自営業者扱いとされ労働法制の埒外に置かれている、完全な無法地帯。
 片や正社員も、内部の階層化が進み、「限りなく派遣・請負に近い正社員」や「短時間正社員」などが出現し、実際には非正規と正規の境界が無くなりつつあるのです。私の職場の請負会社の正社員なんかも酷いものです。私の地元には、昔から繊維関係の地場産業などを中心にして、俗に「泉州労基法」という言葉があるのですが、正にそれを髣髴とさせるような労働条件(1日12時間労働や休日のサービス出勤)の中で働かされています。そんな中で「正社員」がどうの「派遣」がどうの言っていても、全然意味を成さなくなってくる。
 もっと言えば、そもそもこの派遣なり請負なりのアウトソーシングの働き方そのものが「仕事の部品化、人間疎外、モラルハザード」であり「中間搾取、ピンハネ」でしかない訳であって、そんな働かせ方を強いておきながら一方的な精神論でモラルや責任感や愛社精神だのを説教されても白けるだけです。ではかつての終身雇用でもまま見られた「企業戦士・社畜・会社奴隷」的な働き方が良いのかと言われたら、こちらもゴメン蒙ります。「奴隷的でも人間疎外でもない働き方」というのが絶対に在る筈です。

 この1月25日からの通常国会では、今まで散々触れてきたホワイトカラー・エグゼンプションの導入を始め、労働法制の全面改悪メニューが用意されています。安倍マルコスも本音を言えば、参院選を前にしてこんな不人気法案の上程など本当は避けたい所でしょうが、これも年次改革要望書でリストアップされているアメリカ様のご意向ですから、避ける事など到底不可能。あとはもう教育基本法改悪の時と同様のヤラセ・詐欺・デタラメ政治でしゃにむに正面突破を図るしか道はない。

 まずは、御用・商業マスコミやゲシュタポ・ネチズンを総動員して、特権官僚・族議員・政商どもの巨悪を横目に、一部「ヒラ」公務員の働き方ばかりをことさら槍玉に挙げて、「官」との対比で「民」の「成果主義」や「多様で自立的な働き方」の宣伝を垂れ流す、と(その実態がどれだけウソ八百なものであるかは既述の通り)。
 そして、いよいよ改悪メニューの登場。最初は年収1千万クラスからとか、いろいろ目くらましを図ってくるでしょうが、こんなモノは言い訳にしか過ぎません。今の消費税率の様に、適用範囲の年収制限ラインをどんどん繰り下げてくるに決まっています。そしてそれは早晩、正社員やホワイトカラーの枠を超えて、派遣・請負やブルーカラーにまで及んでくるでしょう。或いは、直接ホワイトカラー・エグゼンプションの導入という形でなくても、賃金相場の切り下げという形で影響が出てきます。そんな段階になれば、いくら例のカリスマが「信じられるのは自分のキャリアと高時給だけ」と突っ張って「昼休みはきちんと取る、仕事は定時で帰る」との給うても、そんなモノは一切通用しない世の中になっているのです。

 この番組、そこまでちゃんと見据えたストーリー展開を考えているのでしょうか。派遣会社のテンプスタッフやヒューマンがスポンサーに付いている(番組の合間にCMが流れている)所を見るとどうやら、カリスマ派遣を広告塔にして、せいぜい「派遣vs正社員」のレベルで面白おかしく捉えているだけでは? そうでなければ良いのですが。

・「ハケンの品格」公式サイト
 http://www.ntv.co.jp/haken/
コメント (6)
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