同僚バイトの戸塚君(仮名)が仕事の事で悩んでいるので話を聞いてみました。
戸塚君が現在担当している作業は「検品・一次仕分け」と言って、納品業者が持ってきた商品を検品してブロック別にカートに仕分けする作業です。そのブロック別に仕分けされた商品を、私もその一員である仕分けラインのバイトが、各ライン(ブロック)で更に店別にカゴ車に分けて(二次仕分け)各店舗に出荷しています。上の説明図で言うと②と③の工程が「検品・一次仕分け」に当ります。
戸塚君も今までは私たちと同じ二次仕分けのメンバーでした。それが年明けに、それまで検品・一次仕分けチームにいたベテランバイトが一人退職したので、その穴埋めに前述の作業に回される事になったのです。
私は彼が悩んでいると聞いて、最初はハンディの操作に慣れていないからかと思っていました。ハンディというのは携帯型のポータブル端末で、それで商品のバーコードを読み取り、各ラインに仕分けデータを流すのです。そのデータに基づいて、各ラインで私たちが、棚の上のデジタル表示機に表示された数量通りに各店舗のカゴ車に商品を積んでいきます。そういう仕分けシステムになっています。
でも、彼の悩みはそんな単純なものではありませんでした。単に機械の操作方法が分からないだけなら、そんなに扱いが難しい機器ではないので、慣れればそれで問題は解消します。彼の悩みというのはそうではなく、それ以外のメンタルな部分が非常に大きなウエートを占めているものでした。
検品・仕分けチームは現在、戸塚君も含め6人のバイトで構成されています。但し、そのうち毎日1~2人は交替で公休を取るので、実際には4~5人で現場を回す事になります。その4~5人が、各エリアで検品に回ったり一次仕分けに入ったりして、連携プレイで仕事をこなしているのです。彼の悩みと言うのは、その連携プレイの中で、まだ仕事に慣れていない事もあって、「段取りが分からない、仕事の流れが読めない」という事のようなのです。それで他のメンバーからしょっちゅう怒られるのだと。
私、それを聞いて呆れました。そんな戸塚君みたいな事を言っていたら、しょっちゅう他のメンバーの顔色をうかがいながら、びくびく仕事をしなければならないじゃないですか!
そりゃあ、誰が見ても明らかにいい加減な事をやっていたら、しょっちゅう怒られても仕方ないと思います。いつも検品ミスするとか、全然違う商品のラベルを貼ってラインに流してしまうとか、そういう明らかなチョンボをいつもやっているのなら。
でも、彼は基本的な作業はちゃんとこなせているのだから、普通ならそんなに怒られるはずがありません。最初は商品の検品から初めて、ある程度検品が進んだら一次仕分けに回る。カートが足らなくなれば荷受け場に運ぶ。普通ならその繰り返しで済むはずです。そんなに難しい話ではありません。
でも、戸塚君いわく、それだけではダメなのだそうです。「次来る業者の持ってくる商品はこれだけの量があるから、カートも最低これだけの台数は準備しておかなくてはならない」とか、「3つの業者が同時に商品を降ろし始めても、どの業者も待たす事無くスムーズに検品や一次仕分けを終えなければならない」とか、そんな事まで要求される。
それで責任者のバイトや他のメンバーから、めいめい違う事を指示されるので、どう優先順位をつけて作業を進めたら良いか分からなくなるのだそうです。
そんな事、簡単じゃないですか。一応、責任者はいるのだから(他のバイトの青い帽子ではなく赤い帽子をかぶっているので誰が責任者か直ぐに分かる)、その責任者の指示に従い、もし他の誰かに違う事を言われても、「私は責任者の指示で動いている。文句があるなら私にではなく責任者に言ってくれ」と返せばそれで済む問題です。
ところが、戸塚君には八方美人みたいな所があり、相手から何か言われても「嫌だ」とか「それは違う」とかなかなか言えないのです。だから、社員から残業を頼まれても嫌とは言えず、自分ばかり残業させられる破目になったり、今回みたいに、皆からめいめいテンでバラバラな事を言われたりすると、自分だけでその悩みを抱えこんでしまい、どうしようか分からなくなってしまうのです。その分については戸塚君にも原因があります。
でも、戸塚君の悩みの原因はそれだけではないでしょう。戸塚君自身だけでなく、この職場の体制にも大いに問題があると私は思います。
私に言わせれば「何が連携プレイか、笑わせるな」と言う事です。敢えてこういう言い方をさせてもらいますが。はっきり言って、「連携プレイ」がどうたらなんて、何千万や何億もの年棒を稼ぎ出す錦織圭や浅田真央であって初めて求められるレベルの話です。少なくとも、たかが時給千円にも満たない物流センターのバイトにいきなり求められる話ではありません。もちろん、どんな仕事であろうと連携プレイは求められます。でも、たかだが時給900円かそこらのバイトに求められる連携プレイなんて、本来なら「最初は商品の検品から初めて、ある程度検品が進んだら一次仕分けに回る。カートが足らなくなれば荷受け場に運ぶ」程度で済む話でなければおかしいと思いませんか?それだけの時給しかもらっていないのだから。
もちろん、その上を目指す事も、それはそれで非常に良い事です。どんな仕事にも工夫・改善の努力は常に求められるし、ずっと仕事をやる中では、「こうした方がもっと楽に、確実に仕事が出来るのと違うん?」という意見も当然出て来ます。たとえ時給ウン百円のバイトであっても、良い提案はどんどん会社に言うべきだし、事実私は今までそうして色々改善もして来ました。そうしてこそ、初めて仕事にも張り合い、やり甲斐が出てくるというものです。それは「相手の顔色をうかがう」とかとは全然次元の違う話です。
その中でこそ、「次来る業者の持ってくる商品はこれだけの量があるから、カートも最低これだけの台数は準備しておかなくてはならない」とかいう工夫も、初めて出てくるのだと思います。工夫や改善なんて、誰かに強制されて渋々やる物ではありません。そんな風潮の中では、良い工夫や改善も生まれるはずがない。
でも、それは社員や責任者やベテランのバイトが新人のバイトを励ます中で、初めて可能になる事です。ところが、この会社のやっている事はどうか。会社は社員に丸投げ。社員は責任者やベテランバイトに丸投げ。人数もかつかつ最低限の人数しか配置しない。そんな風潮の中では、責任者やベテランのバイトも、新人バイトを一人の人間としてではなく、単に頭数や自分に忠実な「奴隷」としか見なくなります。
「3つの業者が同時に商品を降ろし始めても、どの業者も待たす事無くスムーズに検品や一次仕分けを終えなければならない」に至っては、もうアホかと言う他ありません。人間はロボットじゃない。そんな事、最初から慣れてない人間に求める方がどうかしています。分身の術でも使わない限り、同時になんて無理です。そこまで無理しても検品ミスしたら何もならない。そんな事をする位なら、他の業者を待たせても先着順や納品数の少ない(あるいは多い)順から片付けていくしかないじゃないですか。それでも、どうしても同時に終わらせたいと言うなら、「最初から人を3人回せ」と要求すべきです。
それもせずに新人にばかり当たり散らすというのでは、単なるパワハラでしかない。パワハラは明確な人権侵害です。そんな事だから、せっかく新人のバイトが入っても直ぐに辞めてしまうのです。それで年がら年中シンドイとぼやいている。傍から見れば自業自得でしかない。
本当はこの会社、いくらでも改善や工夫の余地はあるのです。今までそういう工夫や改善をやって来なかっただけなのだから。但し、私の言う「改善」や「工夫」とは、先輩の顔色をうかがいながら、びくびくしながらカートを用意する事ではありません。そんな物は工夫ではなく只の「苦役」でしかない。「こうすれば楽に、ムリ・ムダ・ムラなくスムーズに仕事が出来るのではないか?」と思って、ダメ元でやってみたら「うまく行った!楽になった!」。その経験の積み重ねがあってこそ、初めて工夫も改善も生まれるのです。
本当にそういう改善や工夫をしようとするなら、業務発注元のスーパーにも、言うべき事は言わなくてはなりません。納品業者に入荷の時間指定を守らせるとか、納入商品の順番もただ闇雲にもって来させるだけでなく大口から先に入荷させるとか、梱包用のビニールなどのゴミはちゃんと持って帰らせるとか。
そういう事もさせずに、何故、業者が荷受けで使うカートなのに、業者には何もさせず我々ばかりが用意しなければならないのか?何故そんな「過剰サービス」ばかり強いられなければならないのか?
ここの会社は、社員もベテランのバイトも、直ぐ二言目には「俺らは下請けだからそんな事は言えない」と言いますが、私はそれは違うと思います。むしろ逆に、物流センターの現場業務に一番精通している下請だからこそ、言える事も一杯あるはずです。もちろん、言い方には工夫が必要ですが、その工夫すらせず、最初から「出来ない」と諦めているだけでは、本当は「出来ない」のではなく、単に「しない」己の怠慢の言い訳に「出来ない」と言っているだけではないですか。
責任者やベテランと言われるバイトも、本当にそれだけの自負があるなら、新人に偉そうに指示するだけではなく、社員や会社に対しても、言うべき事は言えなくてはならないと思います。そうであってこそ、人生の先輩であり、本当の責任者でありベテランではないでしょうか。そうではなく、上には何も言えず、下や弱い者ばかりに八つ当たりするしか能がないでは、そんな「ベテラン」なんて、バカ社員の井下とも「似たり寄ったり」の「井の中の蛙(かわず)」でしかありません。バカ社員の井下一人すら持て余している会社に、バイトの能力についてとやかく言われる筋合いなぞ無い!