昨夜(9月22日)放送のNHK「かんさい熱視線」は非常に見ごたえがありました。番組では物流業界の「2024年問題」を取り上げていました。来年の2024年4月からドライバーの残業規制が強化されます。残業時間の年間960時間上限規制が新たに設けられ、拘束時間の上限規制も年間3516時間から3300時間に短縮されます。この「2024年問題」に対応する為に、運送便のドライバーは途中で休憩を取らなければならなくなりました。しかし、大型トラックの駐車出来るパーキングエリアには限りがあります。おまけに渋滞に巻き込まれたりして、拘束時間は逆に長くなってしまいます。
他方で、運送会社は荷主に頭が上がらない上、何重にも下請けを抱えているので、下に行けば行くほど労働時間は増え、給料は逆に安くなります。そんな「踏んだり蹴ったり」の状態なので、幾らドライバーを募集しても人が集まりません。もはや、どこの運送会社も中高年のドライバーばかりになってしまいました。人手不足と長時間労働の悪循環です。そのうちに、幾ら荷物を発注しても届かない日が来るかも知れません。
勿論、運送会社も手をこまねいている訳ではありません。荷主と交渉して運賃を上げてもらったり、荷受け時間を予約できるようにして無駄な待ち時間をなくすように努力しています。しかし、立場の弱い運送会社に出来る事には限りがあります。消費者も、いたずらに商品の鮮度や値段の安さばかりを追い求めるのではなく、ドライバーの労働条件改善の為に何が出来るか考えるべきではないでしょうか・・・大体そのような放送内容でした。
私も、身をつまされる想いで、この番組を観ました。この番組で言っている事は全て本当です。ドライバーだけでなく、荷物を仕分けしてトラックの積み下ろしを手伝う私たち物流業界の会社も、幾ら人を募集しても全然来ません。私たちも荷主には頭が上がらないので、賃金も最低賃金ギリギリの安い給料に抑えられたままです。こんな所に日本人の若者はほとんど来ません。従業員の多くは高齢者と外国人ばかりになってしまいました。
これは一体誰が悪いのでしょうか?私たちが仕事をサボっているからでしょうか?違うでしょう。下請けが何も言えないのを良い事に、労働者や中小企業の立場をどんどん弱めて、「規制緩和」や「グローバリゼーション」の名の下に、無理な価格競争や労働ダンピング(労働力の安売り)を推し進めてきた政府・財界、資本主義万能論に立つ自民・公明与党や維新の会、国民民主党などの「御用野党」の連中でしょうが!
「残業規制で逆にドライバーは拘束時間が長くなった」と番組は言います。確かに現象面だけで見ればその通りです。では残業規制をしなくなったらどうなります?過労死するドライバーが続出し、無理な運転で交通事故も激増しますよ。今まで残業規制がなかった事自体が異常なのです。ようやく始まった残業規制も上限が年間960時間。月に換算すると80時間。過労死ラインぎりぎりじゃないですか!
これはもはや人権問題です。それを「コスト」、つまり「カネ勘定」の問題としか捉えていないから、「労働時間短縮のコストをどこかでひねり出さないといけない」という発想になってしまうのです。確かに「ひねり出す」努力は必要です。しかし「ひねり出せない限り、過労死に甘んじなければならない」という発想自体がそもそも間違っています。「ひねり出せない」なら「出せる」ようにするのが、政府や政治家、労働組合の仕事です。
そう考えれば、やり方は幾らでもあります。独占禁止法や公正取引法を改正して不当なダンピング競争を規制する。労働基準法の骨抜きを止めて残業規制を強める。最低賃金法を改正して最低賃金を大幅に引き上げる。防衛費や海外援助のバラマキにばかり税金を垂れ流すのではなく、中小企業を支援して、労働者にまともな賃金と労働条件を保障できるようにする。そうすれば人なんて幾らでも集まります。わざわざ言葉の通じない外国人を雇う必要もありません。今のままでは外国人も、労働時間ばかり長くて給料は安い日本に愛想を尽かして、よその国に行ってしまいますよ。現に、そうなりつつあるじゃないですか。
人手不足に悩まされているのは、何もトラックのドライバーだけではありません。大阪府富田林市の近郊で路線バスを運行する金剛バスが事業からの撤退を決めたのも、赤字経営だけでなく、バス運転手が確保できなくなったからです。赤字とは言え、まだそこそこ通勤・通学の需要はあるのに。他に並行する鉄道やバス路線もないのに、バスがなくなったら一体どうやって通勤すれば良いのでしょうか?皆が皆、マイカーを所有している訳ではありません。それに、マイカーにばかりに頼っていたら、交通渋滞は更に激しくなるし、排気ガスで更に地球温暖化も酷くなります。
私の勤務先も某スーパーの物流センターです。私はそこの下請け会社で契約社員として働いています。その物流センターにも某スーパーの労働組合があります。社員食堂の横には組合の掲示板もあります。その掲示板に定期大会の議案書が吊るしてありました。その議案書によると、今期のテーマは「現状打破」なのだそうです。
私はこれを見て呆れました。「何て抽象的なテーマなんだろうか!」と。私の職場の状況は今まで書いた通りです。人手不足に長時間労働、低賃金・・・今すぐにでも取り組まなければならない課題が山積しています。それを認識していたら、こんな「抽象的」で「中身スカスカ」の「ポエム」にうつつを抜かしている暇なぞないはずです。もっと具体的な要求課題を掲げるはずです。
おそらく、この組合幹部には現状が見えていないのでしょう。又は見えていても知ろうとしないのでしょう。自分たち大企業正社員の、組合幹部の利益さえ守れればそれで良いと。この労働組合も連合(日本労働組合総連合会)やUAゼンセン(商業労働者の組合で作る連合体)に加盟し、国民民主党を応援しています。先日、国民民主党の元・副代表の矢田雅子が岸田内閣の政務官に抜擢された事が話題になりました。国民民主党の玉木代表が最近とかく政府寄りの発言を繰り返しているのも、こういう事が背景にあるのでしょう。
こんな「御用組合」なら不要です。こんな「労働者の敵」を休ませる為に、こいつらが休んでいる盆や正月も、私たちは休みもなく働かなければならないのです。政府の言う「働き方改革」は、こいつらだけが対象なのでしょうか?違うでしょう。下請けも含めて、全ての労働者に、人間らしい労働条件と、別に残業しなくても食べていける賃金を保障するのが、本当の「働き方改革」ではないのですか!
先月、西武そごうの労働組合がストライキを打ちました。親会社のセブン・アイ・ホールディングスが東京・池袋の西武百貨店を一方的に外資に売却し、それを買い取ったヨドバシカメラに売り場を占拠されるのを嫌って。勿論、赤字だからと言って、勝手に百貨店を外資に叩き売り、労働者を路頭に迷わせるような事があってはなりません。しかし、それに反発してストを打った西武そごうの労働組合も、「量販店のヨドバシと一緒にされては堪らない」という気持ちがあったからではないでしょうか?
その「ヨドバシ」を「下請け」に置き換えたら、もう「下請け差別」そのものじゃないですか。労働者が資本家の横暴と闘う時は、全ての労働者が一致団結して闘わなければ勝てないのに。同じ労働者同士で「量販店だから」「下請けだから」と反目し合って一体どうするのですか?
ところが、私の勤務先の労組掲示板には、西武そごう労働組合のストライキに対する連帯表明すら掲示されていませんでした。議案書以外に掲示されていたのは共済や旅行の割引サービスの案内だけでした。これではただの互助会です。健保組合などと同じ、ただの正社員互助会。同じ労働者なのに、自分たち大企業正社員の利益さえ守ればそれで良いのか?大企業と一緒になって、下請け搾取に胡坐をかくだけの労働組合なら、もはや「百害あって一利なし」です。下請け搾取に胡座をかく労働貴族に鉄槌を!