下田市で長谷川和夫先生(あの長谷川式スケールの考案者です)の講演がありましたので、お話を聞いてきました。
長谷川先生とはもう20年近く前、学会で毎年意見をたたかわせた時代があったのです。
血管性痴呆の概念が根本的に違うのですが、そこをなかなか理解していただけませんでした。
私たちの主張
「脳血管障害が起きたら、障害された場所によって後遺症が起きることは当然。ただしそれがそのまま痴呆を意味するのではない。なぜなら、痴呆というのは、脳全般的な機能低下が定義だから。(脳卒中はほとんどが片側に起きるため、後遺症も片側に由来したものとなる)
脳卒中後の生活のいかんによって、痴呆にもなるし、後遺症を抱えながらでも元気にその人らしく生活を続ける場合もある。つまりは生き方の問題のほうが、痴呆発症には大きな要因となる」
それはさておき、今日の講演です。
「神経細胞のネットワークが壊れることで認知症は発生する」
壊れる原因としては
1.脳血管障害
2.ベータアミロイド蛋白がネットワークを邪魔する
予防法としては
1は普通の脳卒中予防。
2は予防はできないが治療はできるし、進行を止める薬アリセプトもできた。
さらに
認知症患者の心理を知って対応することが大切。
「認知症は、物忘れから始まる」
これほど世の中に流布されている間違いはないのですが!
二段階方式の手技を使っている人はわかりますよね。MMS30点(想起が満点)でも、前頭葉機能が不合格の人がいますよね。認知症の発症は、前頭葉機能低下から始まります。
「長谷川式スケールの解説」
「三単語の記銘ができないのは、かなり進んでいる」とおっしゃられ、「もちろんその通り。私たちの分類でいえば大ボケがかなり進んだ状態です。でも失語症の人も答えられないけど」と思いました。
「原因疾患の比率。アルツハイマー病50-60%、脳血管性30%、レビー小体病10%、その他10%」
脳血管性の場合は、マヒや舌のもつれなど運動障害や言語障害がともにあり、後遺症として認知症が出てくる。リハビリをやるとマヒが軽くなるように認知症も改善する。
ここに関しては、上に書いたようにエイジングライフ研究所は考え方がまったく違います。実は脳卒中そのものの後遺症が認知症の症状(見当識障害と記銘力障害)であるケースは、全卒中の中でほんの数パーセントしかありませんでした。
それともうひとつ。アルツハイマー病とひとくくりにすることにも納得がいきません。ごくごく少数の遺伝子異常による若年発症のアルツハイマー病と、高齢になって徐々に起きてくるアルツハイマー型認知症は、その臨床像や経過が全然違います。死亡後の剖検でその形状が同じだということで、まとめてしまうことは無理があります。
その後は 、慢性硬膜下血腫のCT像・正常者とアルツハイマー病の方の MRI画像や神経細胞写真をみせてくださいました。
「認知症の経過
正常
↓
MCI(軽度認知障害):物忘れ
↓
軽度:ものわすれ・言葉のやり取り・手順の障害
↓
中等度:場所不明・道具が使えない
↓
重度:家族の見分けがつかない・失禁
平均8年、場合によっては10数年の経過をたどる。経過は直線的でなく、山あり谷あり。『本人が安心だ』という状態を用意すると平坦状態が続く。早期ならそれをアリセプトが助ける」
平坦状態とは問題行動が収まる意味でしょうが、脳機能が改善するということは違います。
「予防」
個体の認知力は加齢とともに直線的に低下するが、(イメージグラフを提示されました)
危険因子は高血圧・高脂血症・肥満・糖尿病。過脂肪食。高カロリー食。運動不足。喫煙。ひきこもり。うつ。
緩和因子は運動。食事は魚・果物・野菜。対人交流。文章を読む。文章を書く。ゲーム
危険因子としてあげられた、高血圧~喫煙までは脳卒中を引き起こす原因の列挙ですね。エイジングライフ研究所は、認知症の予防法として、脳血管障害の予防を一番にはあげません。生活の在り方、左脳や右脳や運動脳をどのように使うのか、その時に前頭葉はどのようにいきいきと関与するのか。
そこを個々人がどのように自覚し、どのように使い続けるか。
あくまでも生活習慣病としての認知症の予防を主張しています。
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長谷川先生の統計で、血管性認知症の2倍ものアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症ですね)があるのなら、上記のひきこもり・対人交流・ゲームなどの点(つまり血管性認知症の発症要因と無関係)を、もっと積極的におっしゃっていただきたかったと思いました。
そうすると私たちの主張と重なりますよね。
講演の後半はケアに関するお話でした。