脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

「側頭葉性健忘」発症→三密回避→中ボケに移行

2023年03月04日 | 側頭葉性健忘症
今年になってから撮った桜をお見せします。
今日3/4のカワヅザクラ。こんなに葉桜になっています。

2/19.ほとんど満開です。

このブログでも、何度か側頭葉性健忘について書いてきました。(カテゴリー参考にしてください)
今回の側頭葉性健忘の方の話は、とても示唆的ですからまとめることにしました。
「母が認知症の父を見ているのですが、だんだん大変になってきたらしくてイライラしてるようで気になっているものの、コロナもあるし実家は遠いから簡単には帰ってあげられないんです。その分、母とはよく話してますけど」
「お母さんは何が一番困るって言われてるんですか?」
「生活のいろんなところで目が離せない。いつも何か気をつけていないといけないといいます」
ということは前頭葉機能だけ低下している小ボケのレベルは超えている。小ボケはその人らしさは損なわれているのですが、家庭生活に目を配ってもらう必要はないのですから。
2/6 満開のカンザクラ ニュヨークランプミュージアム

「目を離せない」といっても、レベルはさまざま。
食事の時にどうも今までになくお行儀が悪いこともあるし(これが小ボケ)、料理の味にお構いなくまぜこぜにして食べること(これは中ボケ)もあります。食品でないものや熱すぎるものを食べてしまいそうになるから気をつけないといけないこと(これは大ボケ)もあります。
服の着方でも、なんとなくだらしない(小ボケ)から始まって、重ね着や裏返しやボタンがずれている(中ボケ前期)。季節や目的にあった服装ができない(中ボケ後期)という段階を経て、自分で着られないので着せなくてはいけない(大ボケ)に至るのです。
2/6 カンザクラ

確認していくと、まさに中ボケ。多分前期。
服薬の自己管理ができないから見てあげないといけないということは、中ボケでよく訴えられるので確認してみると、
「そうです!」
まず、中ボケで間違いないと思いました。中ボケというのは前頭葉機能がかなり低下して、その上、脳の後半領域のいわゆる認知機能にもほころびがみられるような脳機能の状態であることを意味します。
そのためには、それまではその人らしく生活していたのに、何らかの出来事が起きて脳をイキイキと使えない、いわゆる「生きがいも趣味もなく、交遊も楽しまず運動もしない」ナイナイ尽くし状態になった。そしてその期間が3~4年くらい続いている。これが典型的なアルツハイマー型認知症ですから、そこの確認に入りました。
2/6 カンザクラ

シンプルにまとめなおしておきましょう。
①脳機能:中ボケレベル。前頭葉機能低下、後半領域も中度低下。
②生活実態:家庭生活要支援。
③生活歴:3~4年間のナイナイ尽くしの生活が継続。
今、①と②が一致しています。③を確認して、ごくごく普通のアルツハイマー型認知症の説明をしてあげましょうと思いました。
ところが「ナイナイ尽くしの生活」ではないらしい!
「父はもともと多趣味な人で人付き合いもよく友人も多いタイプでした。(こんなタイプのアルツハイマー型認知症の人はいません!)
卓球でしょ。盆栽でしょ。絵も描くし、音楽だって好きでした。そうそうマジックも好きでよくどこかでやってあげてました。運動もよくしていたし。あ、今でも散歩は欠かさないそうです」
私の質問が続きます。
「お父さんは動作は機敏だし、表情豊かですよね!」
「そうなんです!いわゆるボケちゃった人って、目に力がないというか、ボーとしていて顔つきが違いますよね。そんなことはないんです。コロナのせいでしばらくは会っていないんですけど」
2/21青野川のカワヅザクラ

そこで側頭葉性健忘の話をしました。
またまた簡単にまとめると下表になります。

つまり側頭性健忘は、記憶の障害ははっきりあるのですが、前頭葉機能が低下していないのです。その人はその人らしく生活しようとするのですが、記憶の障害があるために多くの失敗を積み重ねてしまうということなのです。その時、恥じたり、困惑したりする様子が見てとれるものです。
いっぽう、アルツハイマー型認知症はまず最初に前頭葉機能が働かなくなり、その後から後半領域の認知機能、記憶や計算能力や見当識などの低下がみられます。記憶力が低下して種々のトラブルが起きても、それを問題視する前頭葉機能がすでにない。もちろん恥じたり、困惑したりする様子が見られません(小ボケのレベルでは、まだ困惑を感じています)。
2/21カワヅザクラ

今日はここからが大切です。
このお父さんは、単純に側頭葉性健忘と言い切れません。理由はお母さんが「日常生活で手がかかり目が離せない」と訴えているところです。
側頭葉性健忘だけならば、日常生活にそれほど手も目も必要ではありません。カテゴリーの中にイキイキと生活している方のケースを書いてありますが、テレビで表情豊かに自分の内面を訴えている方たち(多くは若年性認知症と名付けられています)をイメージしてくだされば、わかりますね。
カテゴリーから一番新しい記事「クローズアップ現代 認知症の私が認知症の相談に乗ってみたら…」を張っておきます。
3/2伊豆高原駅前のオオカンザクラ

いつ発症したかは離れて住む娘さんからは聞き取れませんでしたが、一般的にはとても短い時期をあげて「夏ごろからおかしくなりました」とか「旅行から帰ってからです」といわれることがほとんどです。
とにかく何年か前から側頭葉性健忘があるにもかかわらず、生来の性格も手助けしてくれて趣味や交遊を楽しんでいたお父さんだったので、この時は記憶障害だけしか生活に影は落としていなかったということです。人によっては側頭葉性健忘を発症したことで、それがそのまま「ナイナイ尽くしの生活」を引き起こして、脳の老化を早めてしまう人もいます。生活の変化を丁寧に聞くとアルツハイマー型認知症とはちがうことがわかります。
話を戻しましょう。コロナによる三密回避が徹底された結果、楽しむ場が極端に減ったことはすぐに想像できます。散歩を続けられたことは幸いでしたが、生きがいも趣味も交遊もない状態は脳の老化を加速させます。そしていま中ボケのレベルになっている…盆栽の世話ももう面倒になっておざなりになっているはずです。
側頭葉性健忘は、生活していくうえでは確かに大きな障害となるものですが、この方のように乗り越えることもできるのです。がんばって生活してきてくださっていたのに、この三密回避には負けてしまわれたのです。
側頭性健忘の方は、いったん老化が早まると、小ボケの期間が短くて気が付くとすでに中ボケ前半になっています。中ボケレベルになっている脳の後半領域の機能低下を前頭葉機能が補っているわけですから致し方ないことですが。
3/2オオカンザクラ

何度か警鐘を鳴らしている三密回避が、脳機能に与えるダメージを立証することになってしまいました。
お父さんの脳リハビリのカギはお母さんが握っています。お父さんに起きたこのメカニズムを理解してもらって、できるだけ楽しく、顔が晴れるような時間を工夫してください。絵も音楽も、お父さんには引き出しがたくさんあります。コロナ前に生活を取り戻すように、幸い世の中も少しづつオープンになって行ってますから、まだま希望は十分に持てると思います。
by 高槻絹子


認知症に関して理論的に詳しく知りたい方は、以下のブログもお読みください。

ブログ村

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