防衛局は7月31日、北部訓練場のヘリパッド工事の環境影響評価の事後調査報告書を公表した。10月26日(月)、県の環境影響評価審査会が開催され、事後調査報告書についての審査が行われる。今日(22日)、高江現地行動連絡会は所管の沖縄県環境政策課に行き、審査会への意見書を提出した。そして26日の審査会で口頭で意見陳述する機会を与えるよう要求した。私の意見書の趣旨は次のようなものだ。
「現在、工事が予定されているN1地区ヘリパッド造成のためには、N1ゲートから延長約2kmほどの旧林道を整備しなければならない。しかし、この旧林道は数ヶ所で崩壊しており、工事用の進入路(完成後は米軍車両が走行する)とするには大規模な改修工事が必要となる。現在の防衛局の計画はそれを無視したものであり、環境に深刻な影響を与えることは必至である。この旧林道を進入路とすることは無理であり、N1地区のヘリパッド造成は中止すべきである。」
(図の青線部分がN1地区への進入路となる旧林道)
審査会で口頭での陳述が許可されるかどうかは分からないが、今後のヘリパッド工事を阻止するためにはきわめて重要な機会だ。審査会は公開で行われ、誰でも傍聴ができる。是非、多くの方がおいでいただき、審査を見守ってほしい。
沖縄県環境影響評価審査会
10月26日(月)午前9:30~12:00 集合 午前9:00
カルチャーリゾート・フェストーネ(宜野湾市 コンベンションセンター南)
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(以下、私が提出した意見書を添付する。)
沖縄県環境影響評価審査会
会長 宮城邦治様 2015年10月 日
意 見 書
本年7月31日、沖縄防衛局長が公告した『北部訓練場ヘリコプター着陸帯移設事業(仮称)に係る事後調査報告書』のうち、N-1(a)、同(b)地区のヘリパッド工事に関して下記のとおり意見を述べます。
なお、この「事後調査報告書」の審査が行われる環境影響評価審査会で、口頭での陳述の機会を与えていただくよう要請します。
記
第1.はじめに
N-1(a)、同(b)地区の造成工事のためには、県道70号線のN1ゲートからN-1地区付近の峠まで続く旧林道(延長約2.0km)の整備が必要である(図1参照)。
沖縄防衛局長は、N-1地区のヘリパッド造成工事とこの旧林道の整備工事に関して、昨年5月27日、県の赤土等流出防止条例に基づき、「事業行為通知書」を沖縄県知事に提出した。これに対して私たちは赤土流出対策が不十分だとして知事に要請書(資料1)を提出して抗議したが、知事は、昨年7月11日、「確認済通知書」を出してしまった。
しかし、この旧林道は、途中で何箇所か崩落しており、工事用車両の通行に耐えうるものではないと言われている。工事用車両が安全に通行することができるようにするためには、かなりの規模の整備工事が必要であるが、防衛局が提出した「事業行為通知書」の対策は全く不十分なものである。
また、この旧林道は、N-1地区のヘリパッドが造成され米軍に移管された後は、米軍の演習のための軍用車両の進入路となる。防衛局の「事業行為通知書」の対策は、あくまでも工事期間中だけの応急的なものにすぎず、その後の米軍車両の恒常的な通行に耐えうるものではない。
沖縄県環境影響評価審査会の先生方は、本年9月14日、24日にこの旧林道からN-1地区ヘリパッド予定地を往復され、何箇所かの崩落箇所についても確認されたはずである。防衛局の「事業行為通知書」の対策では不十分であり、このままでは大規模な土砂流出など、環境への深刻な影響が危惧されることを知事に答申されるよう要請したい。
第2.工事用進入路となる旧林道の崩落箇所の対策について
防衛局の「事業行為通知書」には、この旧林道の整備計画が十分に記されていなかったため、沖縄県環境保全課は6月12日に現地立入調査を行った上で、防衛局に追加対策を示すよう指示した。これに対して防衛局は7月7日、県に「北部(H25)着陸帯移設工事(N-1地区等)に係る確認事項等について(回答)」(以下、「回答」)を提出した(資料2)。
以下、防衛局の「事業行為通知書」の「10. 事業行為理由書」(P33・資料3)と、防衛局から提出されたこの「回答」について問題点を指摘する。
1.旧林道の崩落箇所・狭隘箇所の現状
防衛局の「回答」(資料2)の横断図でも、旧林道の崩落箇所や、狭隘箇所の現状が示されている。たとえば次のような断面がある。
<No.46+4.17>(P6)
この箇所は、一応、幅員3m少しはあるものの、片側はほとんど垂直に近い切り立った崖となっている。
ところが、道路の端には土のうが置かれているだけで、転落防止柵等の安全対策は講じられていない。この道路は4㌧ダンプトラックが砕石等を満載して走行するが、このままでは車両が転落する恐れが強く危険きわまりない[1]。
車両の転落を防止するためには、道路を崖から大きく離す他ない。しかし、そのためには崖と反対側の斜面を広く盛土して整備する必要がある。
<No.52+14.7>(P7)
また、この箇所は道路がきわめて狭隘である(すぐ手前のNo.52+12.7の断面はわずか1mほどの幅員しかない)。そのため、傾斜の緩い方の斜面を広範囲に盛土するとしている。
ところが、前述のNo.46+4.17の断面箇所もそうだが、このような幅の広い盛土工を施行するためには、土砂流出防止対策を講じることが不可欠だが防衛局の「回答」では簡易な土砂流出防止柵を設置するとしているだけであり全く不十分である。
2.防衛局の施工方法の問題点
防衛局は、旧林道については「施工幅が小さく施工延長が長いため地形上、貯水池を数ヶ所設けるには不合理である。工区分けをすることにより裸地を出さずに施工することが可能である。」として、地形上の理由から赤土流出防止対策を講じないと説明している。具体的には、「1日当りの施工は100m程度とし、不陸整正と路盤の敷き均し及び転圧までを1サイクルで施工を行い、日々の施工終了時には裸地をなくす。」としている。
⑴ 全く現実的ではない防衛局の施工方法---裸地の発生は不可避、赤土処理対策が必要
防衛局は、この旧林道の造成について、1日当りの施工を100m程度とすることにより、「裸地を出さずに施工することが可能」と主張するが、そのような施工法は実際にはほぼ不可能である。たとえば、防衛局の施工方法には次の検討が欠除している。
まず、砕石等を運ぶ4㌧ダンプトラックが現場で砕石を降ろすためにはダンプトラックの転回(切り返し)箇所を100m毎に設置しなければならない。また、ダンプトラック等の工事車両がすれ違うための待避所も何箇所か必要となる。旧林道は細い尾根筋の道なので、こうした転回箇所や待避所を設けるためには盛土が必要になるところも多い。
さらに、防衛局の施工方法では、路面の表土除去等で発生した土砂等の仮置き場、崩落箇所を避けるための盛土施工のための進入路、土のう、大型土のうや切丸太、杉板等の製作、設置のためのスペース等が全く示されていない。
これらを考慮すれば、幅員3mの道路部分の整備だけではなく、それ以外にも広いスペースが必要となり、広い裸地の発生は不可避である。それらを無視した防衛局の赤土処理対策は全く不十分なものである。
⑵ 少なくともG地区への進入路造成と同程度の赤土処理対策が必要
N-1地区の後に造成が予定されているG地区では、今回とほぼ同規模の幅員3m、長さ1.3kmの進入路が造成される。G地区のヘリパッド工事の設計図書では、進入路の全域に土砂流出防止柵(両側)が設けられ、約100m毎に沈殿池や汚水処理プラントが設置される。
今回のN-1地区への旧林道の整備についても、少なくともG地区への進入路と同程度の赤土流出防止対策が講じられなければならないことは明らかである。それが不可能というのなら、旧林道を工事用進入路とすることは諦めるべきである。
第3.旧林道を工事用進入路、完成後の米軍車両の通行路とすることは、赤土流出防止のための大規模な造成工事が必要となり環境への影響は甚大である。進入路のないN-1地区のヘリパッド造成そのものを断念すべきである
以上述べてきたように、この旧林道の整備に関して防衛局の赤土流出防止策は全く不十分なものである。この付近は北部訓練場の中でも特に豊かな自然が残されている地域であるが、このままでは大量の赤土が宇嘉川や新川の源流部分に流出し、深刻な環境破壊を引き起こす恐れが強い。
また、問題は工事期間中だけに留まるものではない。N-1地区のヘリパッドは2ケ所も造成されることから、米軍の頻繁な利用が想定されるが、完成後はこの旧林道を軍用車両が通行することとなる[2]。現在の防衛局の対策のような杉板・丸太による土留め等では、その後の米軍の長期的な使用には耐えることができない。
旧林道は現在でも何箇所かで崩落しているが、今後、新たな箇所で同様の崩落が発生する恐れも強い。このような旧林道を大型の工事車両や軍用車両を通行させることは環境への重大な影響を与える大規模な造成工事を実施しない限り不可能である。
N-1地区のヘリパッド造成計画そのものを撤回すべきである。
(以上)
[1] 労働安全衛生法第21条
「事業者は、掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法から生ずる危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。 2 事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。」
[2] N-1地区へは旧林道の南側から進入することも可能である。しかし、そのためには新川ダムの堰堤上の道路か、高江の集落内の村道を使用することとなる。新川ダムの堰堤上の道路は10㌧の重量規制があり大型車両は通行できない。また、高江の集落内の村道は、小・中学校や公民館のある生活道路であり住民生活へ深刻な影響を与える。そのため、東村村長も「身体をはってでも阻止する」と表明し、井上防衛局長も「工事車両は高江集落内の道路を通過させない」と約束せざるを得なくなっている。全ての車両は、N1ゲートからの旧林道を通過することとなる。
なお、今後、G地区やH地区のヘリパッド造成も予定されているが、そのための工事車両、さらに完成後の米軍車両も上記の理由からこの旧林道を利用することとなる。