白馬岳という山になぜこれほど引き込まれるのか、学生時代、社会人、
そして老人になってからも3度、登り続けたか?今や明確に登った記憶をたどることはできない。
記憶を蘇らす手助けは奇跡的に手元に残ったこのガイドブックと、学生時代のアルバムの数葉の写真だけ、
社会人になってからは毎年訪れたにもかわらずエクタクローム、(スライド用として撮影)
すべて散逸、記録は全く残っていない。初めて白馬、北アルプスに登ったのはこの本を手にし、1963年7月、
大雪渓、白馬大池、蓮華温泉のコースであった、翌年後立山縦走、その後数度訪れたが、白馬の虜になったのは
1966年(昭和41年7月)就職先が決まり、すでに合宿で剣岳に行っている連中に合流しようと唐松岳から
祖母谷に降り(南越)、剣岳からやってくる仲間を待ち構え、2日後に出会い、祖母谷で一泊共に楽しく過ごす。
残った燃料、食料等譲り受け、翌日清水下り(祖母谷温泉から白馬岳に登るコース)に向かうも途中、
重荷を背負った私は空身同然の仲間についていけず、バテ、避難小屋跡で一泊、白馬に向かう仲間と別れる。
白馬で2泊、白馬岳周辺,清水岳、旭岳の花々を求め歩き回り、清水岳で白花コマクサの初めての出会に感激。
白馬から初めて雪倉岳、朝日岳に向かう、旭岳鞍部からダイレクトに長池を目指す、道なき違法ルート、
そこは正に花々咲き乱れる天国のような世界だった。
鉢ヶ岳、雪倉岳、そして朝日岳、降った朝日平の霧の中から聞こえる歌声、
突然現れた主は草原に座って手帳に何かを書いていた若い女性一人、自然、互いに「こんにちわ」
それ以外交わした言葉の記憶はない。日本海に沈む夕日、そして漁火、朝日小屋泊まりの人たち数人、
その美しい風景に魅入っている、私は遠くからその中に先ほどの女性の存在を確認。
朝日平に2泊して蓮華温泉に降った。翌日、食料もまだ十分ある、テントを張ったままにして、
空身で白馬大池に行く。そこで不思議な邂逅、あの女性と、通常の日程であれば出会こともないし、
出会ってすぐに互いに確認出来るはずもない、と今も思う。
下山を共にし、蓮華温泉のテント(10分ほど離れた場所にある)の撤収も手伝ってくれ、
バスで平岩駅まで一緒した。
4時間以上、交わした言葉のほとんど全て記憶にない。彼女は糸魚川、私は松本、行き先が逆、
平岩駅売店でコーラ(クラウン)を買って彼女に渡した時、発した言葉「わー冷たい」
そんなつまらぬことを今でも鮮明に覚えている、彼女の名前さえ聞いていないのに・・・
白馬岳には複合的に絡み合った思い出、記憶がぎっしり詰まっている。
数日前、NHK、小さな旅で「朝日岳」を観た。
4年前、数十年ぶりに朝日岳小屋に泊まったのはまだシーズン前、
白馬大池、白馬 雪倉、朝日のコースを歩いた老人2人、70歳、73歳の私2人だけ、
「名物女性主人」が前泊の白馬山荘との衛星電話のやり取りの声が2階にいる私に聞こえる。
「73歳が先に到着している」と。
おそらく白馬岳、今回が最後だろう、自身の人生の終点はすぐそこ、だが、これだけはわかっている。
八木一郎の序文のように・・・
「俺が死んでも この縦走路は残る 限りある心のきわみをこえて
この縦走路は残る」
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1966年7月
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