[設問]
ある日突然、A氏が歴史学者のB教授を訪問したとします。
A氏は、「自分はあなたの父親の友人で、30年前、あなたの父親に1年後に返済するとの約束で1000万円貸したが、返済されていない。そこで相続人であるあなたに元本と1年分の利息、そして29年分の遅延損害金合計3000万円を全額支払ってもらいたい」と、B教授の父親の署名捺印がある借用書を出して迫ったとします。
古文書学の権威であるB教授が当該借用書をじっくり観察したところ、署名は父親のものに間違いなく、印影も父親の実印に間違いないと思われました。
返済すれば借用書は返してもらうのが普通だから、A氏が持っているということは、本当に返済されていなかった蓋然性が高いように思えましたが、事情を聞こうにも父親は死んでしまっているのでどうにもなりません。
さて、この状況で、B教授はA氏に弁済しなければならないのでしょうか。
[回答]
友人間の金銭消費貸借ということなので、10年権利行使しなければ時効で消滅します。(民法167条1項)
従って、時効を援用して弁済を拒否できます。
ちなみに商行為によって生じた債権であれば消滅時効は5年です。(商法522条)
債権の種類によっては、もっと短い期間で消滅するものもいっぱいあります。(短期消滅時効)
「子供電話相談室」に毛が生えた程度のレベルの回答ですが、時間の経過で証拠が散逸してしまう可能性は刑事手続きと同様、民事でもありますから、民事にも当然ながら消滅時効制度はありますね。
一般の市民にとって殺人事件に巻き込まれることはめったにないでしょうが、領収書の紛失や毀損はごく当たり前に起こり得ます。
仮に民事の消滅時効の制度がなかったら、市民生活に大混乱が生じるでしょうね。
井原氏は、「人類は核兵器の危機、地球温暖化の環境危機とならんで、債務危機という三大苦悩にみまわれている。債務者と債権者が共存しながら債務紛争を解決していく原理を現代人はみつけだせないでいる」(p2)という深遠な危機意識を持たれていて、中世を研究する過程でその危機を克服する貴重なヒントを発見されたんでしょうね。
そして自分の発見が、「二一世紀の人類社会」が必要とするところの「債務者と債権者の権利保護を両立した循環型再生産経済原理」(p219)の確立につながりそうなのですから、興奮を禁じえない気持ちは分からないでもないですね。
ただまあ、「債務者と債権者の共存」が本当によいことなのかは慎重に考える必要があります。
(続く)
ある日突然、A氏が歴史学者のB教授を訪問したとします。
A氏は、「自分はあなたの父親の友人で、30年前、あなたの父親に1年後に返済するとの約束で1000万円貸したが、返済されていない。そこで相続人であるあなたに元本と1年分の利息、そして29年分の遅延損害金合計3000万円を全額支払ってもらいたい」と、B教授の父親の署名捺印がある借用書を出して迫ったとします。
古文書学の権威であるB教授が当該借用書をじっくり観察したところ、署名は父親のものに間違いなく、印影も父親の実印に間違いないと思われました。
返済すれば借用書は返してもらうのが普通だから、A氏が持っているということは、本当に返済されていなかった蓋然性が高いように思えましたが、事情を聞こうにも父親は死んでしまっているのでどうにもなりません。
さて、この状況で、B教授はA氏に弁済しなければならないのでしょうか。
[回答]
友人間の金銭消費貸借ということなので、10年権利行使しなければ時効で消滅します。(民法167条1項)
従って、時効を援用して弁済を拒否できます。
ちなみに商行為によって生じた債権であれば消滅時効は5年です。(商法522条)
債権の種類によっては、もっと短い期間で消滅するものもいっぱいあります。(短期消滅時効)
「子供電話相談室」に毛が生えた程度のレベルの回答ですが、時間の経過で証拠が散逸してしまう可能性は刑事手続きと同様、民事でもありますから、民事にも当然ながら消滅時効制度はありますね。
一般の市民にとって殺人事件に巻き込まれることはめったにないでしょうが、領収書の紛失や毀損はごく当たり前に起こり得ます。
仮に民事の消滅時効の制度がなかったら、市民生活に大混乱が生じるでしょうね。
井原氏は、「人類は核兵器の危機、地球温暖化の環境危機とならんで、債務危機という三大苦悩にみまわれている。債務者と債権者が共存しながら債務紛争を解決していく原理を現代人はみつけだせないでいる」(p2)という深遠な危機意識を持たれていて、中世を研究する過程でその危機を克服する貴重なヒントを発見されたんでしょうね。
そして自分の発見が、「二一世紀の人類社会」が必要とするところの「債務者と債権者の権利保護を両立した循環型再生産経済原理」(p219)の確立につながりそうなのですから、興奮を禁じえない気持ちは分からないでもないですね。
ただまあ、「債務者と債権者の共存」が本当によいことなのかは慎重に考える必要があります。
(続く)