【現代思想とジャーナリスト精神】

価値判断の基軸は自らが判断し思考し実践することの主体であるか否かであると考えております。

「女性の体が戦場になっている」(転載)

2018-10-07 09:29:06 | 転載
「女性の体が戦場になっている」(転載)
ムクウエゲさん強い覚悟2016年 来日時
             望月衣塑子さん


 「私が手術した生後六カ月の女児の性器は、完全に破壊されていた。それは、私の人生にも深い傷を負わせる事件でした」

 2016年10月、私は来日したデニ・ムクウエゲ医師が都内で行った講演を聞いた。コンゴ東部に病院を設立し、その当時までに四万人以上の性暴力被害者の治療にあたったムクウエゲさん。語られた戦争と性犯罪が一体となったコンゴの惨状は、衝撃的だった。

 1994年のルワンダ虐殺の影響でコンゴでも内戦が勃発。 流れ込んだ多くの武装グループに、資金源として鉱物資源の豊かな村が狙われ、支配の手段として性暴力があふれた。

 女性を村人や夫、子どもの前で犯し、恐れを抱かせる。女性の性器にグループ独自の傷を付け、他のグループに自分たちの縄張りであることを誇示する。ムクウエゲさんは「女性の体が戦場になっている」
と表現した。

 性暴力による支配の裏には、安い鉱物を求める多国籍企業がいる。世界中を回って惨状を訴えるムクウエゲさんの活動で、国際的な取引規制の動きは少しずつ進んだが、米国では一部の多国籍企業を中心に規制を緩める動きも。2015年でも病院を訪れる被害者は年間2800人を超えていた。

 国連人権賞、ヒラリー・クリントン賞、サハロフ賞など受賞、ノーベル平和賞候補に何度も挙がったが、賞への思いを聞かれると「賞への思いを聞かれえると「ではない」賞のために働いているのではない」ときっぱり話し、「それより病院に来て被害者の話を聞いてほしい。彼女たちは素晴らしい力を持っている。命を守り、自分たちで生き抜きたいと願っている。彼女たちの力が私のエネルギーです」と女性たちへの敬意を示した。

 取材後、「私に何ができるのか」とひたすら自問した。記事には収まりきらなかった内容をフエイスブックに書き込んだ。

 当たり前の平和、普通の暮らしを、コンゴの女性や未来ある子どもたちのために残したい―。ムクウエゲさんの深い覚悟と信念に、強く心を揺さぶられた。

(東京新聞10月6日社会面視写)